研究課題/領域番号 |
14J08063
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千葉 貴裕 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / 磁性絶縁体 / 磁気共鳴 / 磁化の電気制御 / 国際情報交換(ドイツ) |
研究実績の概要 |
申請者は、非磁性金属と磁性絶縁体を接合させたときに電流が駆動するスピン軌道トルクによって磁性絶縁体が磁化励起されることを発見した。本研究では、磁性絶縁体として知られるイットリウム鉄ガーネット(YIG)と非磁性重元素のPtを接合した系に注目し、交流電流誘起のスピンホール効果を介した磁性絶縁体の磁化ダイナミクスを理論的に研究した。申請者らは、YIG/Pt接合系における電流と磁化の相互作用を調べるために、最近発見されたスピンホール効果磁気抵抗(SMR)を用いて、電流駆動スピントルク強磁性共鳴(ST-FMR)を検出する簡便な方法を提案した。交流電流が誘起するスピン軌道トルクを含むランダウ-リフシッツ-ギルバート(LLG)方程式により磁化ダイナミクスを計算し、SMRによる整流効果としてPt層で生じる直流電圧を定式化した。そして、この直流電圧を実験的に測定することで電流が駆動するスピン軌道トルクにより磁性絶縁体が磁化励起されることを明らかにした。これまで知られていたスピン軌道トルクによる磁性体の磁化励起はすべて強磁性金属を含む金属接合に電流を流すことで発現するが、今回実証した磁性絶縁体の電流による磁化励起を用いると、磁性体に電流を流すことなく非磁性金属に隣接する磁化のスイッチングを行うことが可能となる。このため、将来的には磁性体における発熱や化学反応、磁気特性の劣化の少ない長寿命な新機能磁気デバイスの研究開発へ貢献が期待される。 本研究の一部は、ヴァルター・マイスナー研究所(ドイツ)、ミュンヘン工科大学(ドイツ)との共同で行われた。 本研究の成果は、米国科学誌「Physical Review Applied」のオンライン版(2014年9月3日付)に掲載されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現象論的なアプローチによって、スピン軌道相互作用を介した電流駆動の磁性絶縁体の磁化ダイナミックスを研究できた。また、実験グループとの共同研究により定量的な解析を行うことができたと考えている。しかし、微視的理論の構築にまだ至っていないため、これは今後要求される課題と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、磁性絶縁体に隣接する金属におけるバルクのスピン軌道相互作用による電流誘起の磁化ダイナミックスを研究してきた。本年度は、磁性絶縁体と金属の接合界面におけるスピン軌道相互作用が電流によって磁化に与える影響及びその逆現象を研究していく予定である。最初に現象論的なアプローチにより、界面スピン軌道相互作用の効果が実際の物理現象にどのように表れるかを調べる。次にその現象における重要な物理定数を微視的理論モデルから導出し、界面スピン軌道相互作用との相関を研究する。
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