研究課題
真核生物のゲノム配列の多くの部分がトランスポゾンと呼ばれる反復配列であるにも関わらず、これらがゲノム中でどういった役割をはたしているのか、そしてどう進化してきたのかについてはまだまだわからない部分が多い。たとえば近年、なんの機能も持たないはずのトランスポゾンの配列がどういうわけか遠縁の種間で非常に似ているケースが数多く報告されている。これらの事象を説明するため、(i)これらのトランスポゾンが実は重要な機能を獲得している、あるいは(ii)これらのトランスポゾンの水平伝播が頻繁に起こっている、という2つの説が主に提唱されているものの、ほとんどの場合推測の域を出ない。そこで私は、植物界に広く分布し、また様々な遠縁の種間で配列が非常に似ていることが報告されているAu SINEというトランスポゾンに着目して研究を行っている。全ゲノム配列が公開されている約80種の被子植物のゲノム配列を用いて様々な解析を行った結果、このAu SINEというトランスポゾンが約30種のゲノム中に存在し、また逆に存在しない種も数多くあることがわかった。さらに、遠縁の種間でも配列が似てい場合が多いにも関わらず、水平伝播が起こっていることを示唆するような事実は確認できず、逆に全被子植物の共通祖先の段階からすでに存在しており、ある種では配列の相似性を保ったままゲノム中に残り、他の種では欠失等によりゲノム中から失われた、あるいは配列が変わりすぎて検出できなくなった可能性が高いことが示唆された。また、Au SINEの配列がそれぞれの植物にとって重要な機能を獲得したことを示唆するような事実も確認できなかった。これらのことから、遠縁の種間のトランスポゾンの配列が非常に似ているという事象が、これまで考えられていた水平伝播や新しい機能の獲得がなくても起こりうることが示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の期待通り研究が進展しており、興味深い結果が得られている。現在は、得られた結果を投稿論文としてまとめようという段階である。また、当初の計画にはなかったものの、本研究から派生した新たな研究課題にも現在取り組んでおり、こちらも成果が期待できる。
本研究を進める過程で、私はトランスポゾンの配列の進化を理解するうえで必要な理論的な枠組みがまだ構築されていないという事実に直面した。例えば、ある種のゲノム中に存在するトランスポゾンのファミリーについて考える。この種が二つの種に分岐し、一定の時間がたったと仮定すると、二種間でのトランスポゾンの配列はどの程度似ていると期待できるか。あるいは非常に似ているという状況がどういった条件で、どれぐらいの確率で起こるのか、といった問いに答えるための理論が現在のところ存在しない。そこで、当初の研究計画にはなかったものの、トランスポゾンの配列の進化を理解するうえでこのような理論的な研究が不可欠であると考え、トランスポゾンの理論的な研究を専門的に行っている当研究室の学生と共同でシミュレーションを駆使した理論的研究をすでに開始しており、さらに進めていく方針である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件)
eLife
巻: 4 ページ: e07108
10.7554/eLife.07108
PLOS ONE
巻: 9 ページ: e104241
10.1371/journal.pone.0104241