研究課題/領域番号 |
14J08073
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 貴宏 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 位相回復法 / タイコグラフィー / 光渦 / 波面計測 / 外挿 |
研究実績の概要 |
光渦は波面が螺旋状の光である.量子光学的な軌道角運動量を持ち,その強度分布はドーナッツ状となる.その性質の特異性から,現在までに顕微鏡や,光ピンセット,光多重通信など幅広い分野で応用が進められている.その利用および性能向上のためには,通常利用される集光下での波面および焦点近傍の光渦の波動場を正確に診断する必要がある.現在までに,干渉計やシャック・ハルトマン法による波面計測による評価が試みられている.しかしながら,光渦ビームの集光点近傍の波動場は,光渦でない通常の集光ビームに比べて複雑な分布をしており,わずかな波面誤差が,強度,位相分布に大きく影響する.また,光学系のミスアライメントの影響も無視できない.そのため,高い波面計測精度が必要でありファーフィールドで測定する前述の手法では,集光点近傍の波動場を正確に評価することは不可能である. 今までの研究において,集光された光渦ビームの評価方法として,タイコグラフィ位相回復法を提案してきた.ここでの位相回復法は,波動場伝播可能な二つの平面間の間で繰り返し計算を行い,得られる強度情報のみから位相情報を回復させることを示す.Rodenburgらにより提案されたタイコグラフィー法は,ビームに対して相対的に試料を走査し得られる,ファーフィールド上の多数の回折・散乱強度分布を利用することで,反復演算により試料とビームの強度,位相情報を回復させる. 研究者により,このタイコグラフィー手法が光渦計測に対して有用であることが示されてきた.昨年度においては,それに加えて外挿を用いた空間分解能の向上を行った.タイコグラフィーと外挿を併用することで,実用レベルに近い0.4μmの空間分解能での計測を達成した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の研究進捗においては,位相回復アルゴリズムについての研究が大きく進捗した.それまでの研究においては,位相回復に用いる強度データを取得する段階で,測定の空間分解能が制限されていた.そのため,光渦が応用されている分野への適用としては実現性が欠けているという問題があった.その対策として,位相回復に用いる強度データに外挿を行い,空間分解能を向上させた. 昨年度の研究においては,外挿を行った際の位相回復アルゴリズムについての進捗があった.測定データに外挿を行い,位相回復を実行しようとすると,外挿した領域に誤差が蓄積するといった問題が生じる.その場合,空間分解能の向上は達成できない.ここでは,集光レンズの外側には光が存在しないという条件を新たに拘束条件として追加することで,それらの影響をなくすことに成功した.その結果,外挿して回復を行った結果と測定データの間に高い一致が見られるようになった. X線領域において光渦を発生させるミラーについて,2015年10月に開催されたOPTIFABにおいて発表を行った.螺旋形状を持つミラーを用いて渦波面を発生させるという愛ではについて,光学研究者の理解を得ることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,光渦のみならず,ベッセルビームなど,様々なタイプの光ビームを自由に創生するために空間光変調器(SLM)を用いる.SLMを用いて作られた様々なビームが,タイコグラフィーによって計測可能であることを示す.また,特に軌道角運動量の大きい光渦については,昨年度に研究進捗のあった外挿による空間分解能の向上を用いなければ,計測することができない.それらを用い,本手法の有効性を実証する予定である. また,SLMを用いてタイコグラフィーにより超解像を実現することを予定している.SLMでは,ティルト位相分布を用いることで光ビームの精密な移動が可能である.それらと,外挿を応用することで,光のスポットサイズよりはるかに高い分解能での解像を実証する予定である.
|