研究実績の概要 |
低出力レーザー照射 (以下、LLI: Low-power laser irradiation)には皮膚の創傷治癒や脳外傷の治療効果があることが報告され、神経幹/前駆細胞(以下、NSPCs:Neural Stem/Progenitor Cells)に影響を及ぼすことが示唆されている。近年、大脳皮質第1層のNSPCsが軽度脳虚血で増殖促進され、抑制性神経細胞に分化しながら遊走することが報告されたことから、本研究では大脳し皮質第1層のNSPCsに着目し532 nm LLIが細胞増殖と細胞遊走に影響を及ぼすのかin vitroとin vivoの実験系で検討した。 NSPCsはマウスの興奮性神経細胞が増殖するE10の前脳と、抑制性神経細胞が増殖するE14の内側基底核隆起から培養した。LLIは60 mWで20、40、60分間行った。細胞増殖率の測定では、E10前脳由来のNSPCsの増殖を有意に促進したが、E14内側基底核隆起由来の細胞は変化がなかった。一方で、細胞遊走度を算出したところ、E14内側基底核隆起由来の細胞はLLIによって細胞遊走が促進された。ウエスタンブロットでの検討で、Akt の発現量はLLIによって増加した。(in vitro) 成体マウスの両側総頚動脈を閉塞し10分後に再灌流させた。再灌流から24時間後に頭蓋骨を露出し左一次聴覚皮質野にLLIを60分間行い右一次聴覚皮質野は非照射コントロールとした。EdU (5-ethynyl-2’-deoxyuridine)は照射直後に腹腔注射した。照射から1、5日後に増殖細胞マーカー(Ki67)、抑制性神経細胞マーカー(Gad67)、S期マーカー(EdU)で多重染色し細胞分布を算出した。大脳新皮質第1層にGad67発現性の増殖期細胞(Ki67+,Gad67+, EdU+)と遊走期細胞(Ki67-, Gad67+, EdU+)が観察された。層ごとの分析ではLLIが非照射に比べ深い層へ遊走を促進した。ウエスタンブロットでの検討で、Aktの発現と活性化はLLIによって増加した。(in vivo) 以上の結果から、532 nm LLIはGAD67発現性NSPCsの細胞遊走を促進することが示された。
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