本研究は、音声知覚の個人差が生じる過程において、自閉症者に特異的にみられる処理バイアスが影響しているか検討することを目的としている。本研究はアナログ的手法により自閉症指数を用いた検討を行うが、診断基準の改定(DSM-5)により新たに追加された「感覚過敏・鈍麻」の領域は、既存の自閉症指数に含まれていない。そこで本年度ではまず、「感覚過敏・鈍麻」の経験と既存の自閉症指数との関連性について研究1で検討し,次に、自閉症指数の高低による音声錯覚の個人差と、感覚異常、処理バイアスの関連性を研究2で検討した。 研究1では、感覚異常の評価尺度(Glasgow sensory questionnaire: GSQ)と自閉症指数(Autism-spectrum quotient: AQ)を用いて、大学生(両尺度の有効回答417名)を対象に質問紙調査を行った。結果では、各得点の連続性と両尺度の低い相関は見られたが、因子分析の結果では、尺度間の項目の重複は少なく、それぞれ独立した変数として検討が可能であると示された。この成果を国際誌に投稿し、修正採択された。 研究2では、AQに回答した大学生(504名)の中からスクリーニングを行い、自閉症指数の高群・低群各15名を参加者とした。これらの参加者に、GSQ、視聴覚音声干渉課題(マガーク効果)、視空間干渉課題(Global Local task等)を実施した。主な結果として、自閉症指数の高い参加者は錯覚の生起率が低いが、生起率と感覚異常の経験との関連は示されなかった。また、自閉症指数の高い参加者の中で、音声錯覚の生起に文脈情報利用の弱さが関連していることが示された。この成果は、現在論文化の手続きを行っている。
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