医薬品開発において、候補化合物の体内動態解析は薬効及び副作用を予測する上で非常に重要である。また、金属含有医薬品においてはその生体内での化学形態が薬効に大きな影響を及ぼす。そこで本研究では、金属錯体の体内動態と化学形態を同時に解析する新たな核医学イメージング手法 (Dual Labeling GREI Analysis) の確立を行い、薬効との相関を解析することを目的とした。具体的には、放射性金属元素と放射性標識した配位子から構成される二重標識金属錯体を合成し、GREIを用いて両者の挙動を同時に識別して検出することで体内動態と化学形態を同時に解析する。 本年度は、二重標識亜鉛錯体としてすでに開発済みの[131I]クリオキノール-[65Zn]亜鉛錯体を用いた実験を実施し、非錯体状態の亜鉛(塩化亜鉛)との体内動態の比較、二重標識亜鉛錯体の分布画像の経時変化の解析、Caco-2細胞膜透過時と血中・組織中の亜鉛錯体の化学形態の比較など、より詳細な化学形態評価を実施した。これらの化学形態評価から、消化管からの吸収過程ではクリオキノールと相互作用している亜鉛が存在しており、クリオキノールとの相互作用により腸管吸収性が向上して血中亜鉛濃度が上昇するが、血中から各組織への分布過程ではほとんどの亜鉛錯体が亜鉛とクリオキノールに解離していることが示された。これらの結果は、クリオキノール-亜鉛錯体の抗糖尿病作用が亜鉛のバイオアベイラビリティーの向上に起因することを示唆しており、亜鉛錯体の体内動態・化学形態と薬効との相関解明に二重標識法が有用であることを実証した。
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