研究課題/領域番号 |
14J08236
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤川 大 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | HTLV-1 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病(ATL)におけるエピゲノム異常の実態の解明と、その背景にあるヒトT細胞白血病ウイルスⅠ型(HTLV-1)の関与について解析を行った。 ①ChIP-on-chipを用いてEZH2依存的なエピゲノムを明らかにした。EZH2依存的なエピゲノムは、正常T細胞とATL細胞で大きく異なり、これらのメチル化の変化は遺伝子発現の変化と負に相関していることが明らかとなった。また、メチル化の変化は、転写開始点(TSS)から3000bpほど上流のプロモーター上に高頻度に起こっていることがわかった。メチル化の変化が腫瘍細胞に与える影響を解明すべくGene Ontology解析を行った結果、ATL細胞では転写制御因子が高頻度にメチル化による抑制を受けることがわかった。 ②HTLV-1因子Taxがエピゲノムに与える影響を網羅的に明らかにするために、Taxを健常者由来のT細胞に遺伝子導入し、EZH2阻害条件下で培養した。その結果、EZH2阻害はTaxによる不死化を抑制することが明らかとなり、EZH2依存的なエピゲノムの異常が不死化に必須である可能性が示された。Tax導入によるメチル化の変化を明らかにするため網羅的な解析を行い、上述の正常T細胞、ATL細胞の結果を比較した。その結果、Tax導入細胞のエピゲノムはATL細胞のものと類似していた。メチル化の変化は、細胞周期制御因子やアポトーシス抵抗性に関与する遺伝子に高頻度に起こっており、これらの抑制を介してTaxによる細胞の不死化に寄与していることが明らかとなった。 ③Taxによりエピゲノム異常が誘導されることから、HTLV-1感染細胞においてもそのような異常が存在すると仮説をたて、HTLV-1感染者の末梢血由来のHTLV-1感染細胞におけるメチル化の蓄積を調べたところ、HTLV-1感染細胞では、非感染細胞よりメチル化の亢進が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腫瘍細胞におけるエピゲノムの解明とウイルスによる影響の解析を同時に進行させることで、1年目に計画していたエピゲノムの実態の解明と、2年目に計画していた腫瘍化への影響の解明に着手することができており、計画通りに研究を遂行できていると考えられる。当初の計画では、1年目に17-DMAG処理によるTax及びEZH2の局在への影響を解析する予定であったが、検討の結果、17-DMAG処理は今回の目的に不適であることがわかり、現在はshRNAを用いて検討を行っている。これについては2年目に引き続き検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにエピゲノムの解析は完了しており、今後はこのデータを用いて分子生物学的な検討を行う。 ①TaxがEZH2に及ぼす影響の解析。Taxに対するshRNAを用いて、EZH2の局在に与える影響をChIP assayにより検討する。新たなレポーターを作成し、live cell imagingによりTaxがEZH2の局在に与える影響を検討する。 ②EZH2が生存、増殖に寄与するメカニズムの解明。昨年度までに明らかにしたEZH2依存的なエピゲノムの変化が、実際の細胞の生存、増殖に寄与するメカニズムを検討する。メチル化の増加のみならず、腫瘍細胞特異的なメチル化の減少についても注目し解析を行う。 ③EZH2阻害の有効性。EZH2特異的阻害薬によりHTLV-1感染細胞を特異的に減少させられるのか検討を行う。
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