研究実績の概要 |
本年度は、オーストラリアにあるMopra 22 m 望遠鏡を用いて、低金属量環境の銀河である、大マゼラン雲を観測し、データの解析を進めた。観測は200時間程度かけて行い、昨年度までに行った観測の結果と合わせ、この成果をとりまとめ学会発表するとともに論文化した。結果としては、低金属量環境の特徴として、窒素を含んだ分子(HCN, HNC)や、CCH、メタノールといった分子の存在量が金属量の多い環境とは異なることがわかった。今後は、この観測結果が分子雲のどのような物理・化学状態を反映したものであるのかを明らかにすること、また様々な元素の存在比と分子の存在量の関係を明らかにすることを目指して研究を進めていきたいと考えている。 このような研究の進展を踏まえ、分子雲スケールで平均化した化学組成の由来を明らかにするため、我々の銀河系内にあるW3領域の分子雲で広い範囲の化学組成を調べる観測を、野辺山45 m 望遠鏡を用いて行った。現在はこの結果の解析中である。また、これと関連し、系外銀河の分子雲の化学組成を理解するという目的で、M51という銀河の70 GHz帯の観測も、同じく野辺山45 m 望遠鏡を用いて行った。先に行われた観測の結果と組み合わせることにより、分子雲の物理状態を理解する手がかりが得られつつあり、今後解析を進めていきたいと考えている。 また、大マゼラン雲で見られた分子雲の化学組成の特徴が、低金属量環境の銀河一般に見られるものであるか検証するために、IC10という別の低金属量環境の銀河を野辺山45 m 望遠鏡を用いて観測した。大マゼラン雲での観測結果と照らし合わせて非常に興味深い結果が得られ、現在はこれを論文にまとめる作業を行っている。
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