(1) 政治的財政循環の計測 政府は大きな選挙の直前になると、有権者の歓心を買うために財政支出を増やすか否かを巡って長い論争がある。発展途上国や民主化して間もない国でのみ観察されるとする実証研究が多いが、再選確率(政権支持率)で条件付けした場合には先進国でも同様の現象が確認されるという研究もあり、確たる結論が得られていない。この研究では、米国のデータを用いて、政府の支持率や在任期間といった政治変数と財政変数の関係について、特定の関数的関係を想定することなく分析した。得られた主な知見は次の二点である。第一に、大統領の在任期間が財政変数に与える影響は統計的に有意でない。つまり、政治的景気循環は生じていない。第二に、大統領の支持率が政府支出に与える影響はU字型である。これは、次回の選挙が接戦であるときほど、政権にいる政治家は財政支出を減らすインセンティブを持つことを意味する。
(2) インフレとインフレの不確実性 この研究では、インフレ率の水準がインフレ率の分散に影響するかどうかについて、日本の時系列データを用いて実証的に検証した。インフレ率とインフレ率の分散の関係については、Milton Friedman論文(1976年)以来、膨大な研究の蓄積があるが、対象とするデータや分析手法により結果は区々である。本研究では、パラメータの経時的変化を許容した確率的ボラティリティモデルをベイズ推計するというアプローチを採った。推計の結果、名目金利の下限ゼロ制約に服しているか否かに関わらず、インフレ率の水準がインフレ率の分散を押し上げていることが分かった。これは先行研究の多くと一致する結果であるが、中央銀行によるインフレ率のコントロールが失われた状況であっても成立しているということを示唆し、従来の中央銀行の行動に依拠した理論モデルに大きな疑問を投げかけるものである。
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