研究課題/領域番号 |
14J08306
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 寛之 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 自己熱再生 / 海水淡水化 / 流動層 / 凝集挙動 / 省エネルギー |
研究実績の概要 |
エネルギー消費量が少なく、濃縮排水が生じない蒸発型海水淡水化プロセスを実現するために、蒸発器に流動層を利用した新たなプロセスを提案した。濃縮排水を削減するためには伝熱管表面への塩(スケール)の析出を抑制する必要がある。そこで流動層内でのスケール析出挙動について検討をおこなった。流動層型蒸発器に模擬海水を注入し、海水蒸発実験をおこなったところ、提案したプロセスは非常に大きなスケール抑制効果を有することを確認した。同時に海水中の塩類は固体架橋として流動化粒子を凝集させ、形成された凝集体が層底部に堆積することを明らかにした。 凝集体が堆積すると、伝熱が阻害され流動層が機能不全(非流動化)を引き起こす可能性がある。そこで、安定した運転が可能なプロセスを設計するために、流動層内における凝集体の振舞いについて検討を行った。流動化ガス速度、層内温度、流動化粒子の直径を変化させ海水蒸発実験をおこなったところ、流動化ガスの気泡により生じる力、液架橋力、固体架橋力により、凝集挙動を説明できることを明らかにした。この結果から、層内での凝集挙動を説明できる簡易モデルを提案した。さらに、凝集体の堆積を抑制しながら蒸発器を運転するためには、固体架橋により生じた凝集体を破砕する必要があり、非常に大きな流動化ガス速度が必要となることを明らかにした。したがって、省エネルギーなプロセスを実現するためには、連続的、またはバッチ的に凝集体を回収するプロセスがエネルギー的に適していることを明らかにした。 これらの結果から、プロセス全体のエネルギー消費量について検討した。プロセスシミュレーションを利用し、提案するプロセス全体でのエネルギー消費量を見積もると、従来型の蒸発型海水淡水化プロセスと比べ、大きな省エネルギー性能を有することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流動層内を外部から観察できるガラス製流動層で海水蒸発実験をおこない、海水を供給しても粒子の流動化、海水の蒸発が持続する条件を明らかにした。海水と同じ成分を有する模擬海水を作製し供給液として使用した。模擬海水をオイルバスで予熱したのち流動層型蒸発器に流入し、加熱された流動化粒子と接触させることによって模擬海水を蒸発させた。流動化粒子は層内に挿入したヒーターを利用して加熱した。流動化の判断は、層内の圧力損失、温度分布の計測、さらに流動層外部からの視覚的な観察を併用し行った。流動層内の温度、流動化ガス速度、粒子の直径等を変化させ、粒子の凝集、流動化に与える影響を実験的に明らかにした。同時に、粒子間での力のバランスについて理論的な考察を行い、実験結果を説明することが可能なモデルの構築を行った。 流動層型蒸発器で、ある量の模擬海水を蒸発させ、蒸発前後のヒーターの表面写真、質量変化を比較し、伝熱管表面へのスケール析出について検討した。同様に、海水にヒーターを浸し蒸発させた際の、ヒーター表面の変化、質量変化を確認した。これら二つの実験から、流動層型蒸発器が有するスケール抑制効果について検討した。 さらに析出した塩類のセグリゲーション特性を解明し、塩類の回収方法を決定した。流動層内での粒子の振舞いは非常に複雑である。国内だけでなく海外の研究者とも意見交換を行い、流動現象の理論的な解明を行った。 提案した、流動層を利用した自己熱再生型海水淡水化プロセスでは、ブロアー動力、コンプレッサー動力が必要である。これらのエネルギー消費量は熱交換温度差、流動化ガス速度、層内圧力損失に影響を受ける。上記の計測で得られた結果をプロセスシミュレーターに反映し、提案するプロセス全体でのエネルギー消費量を試算した。 以上より、当初の予定通り研究は進んでいるので、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
26年度の検討では、ブロアー動力、コンプレッサー動力を考慮に入れた、エネルギー消費量の試算を行った。しかしながら運転条件が最適化されておらず、依然エネルギー消費量削減の余地がある。したがって、提案した、海水淡水化プロセスの更なるエネルギー消費量削減方法について検討する。省エネルギーの観点から考えると、ブロアー動力、圧縮機動力は小さいほどよい。しかしながら、ブロアー動力が小さいと粒子の流動は穏やかになり、凝集体の堆積が生じやすくなり、流動層が非流動化を生じる可能性が高くなる。また、圧縮機動力を小さくした場合も同様に、層内の温度が低くなるので、伝熱速度が低下し、凝集が生じやすくなると予想される。そこでエクセルギー解析を利用して、提案するプロセスでの理論的な最小エネルギー消費量を計算するとともに、提案した条件で、実際に運転を行うことが可能か実験的に検討する。そして、提案するプロセスが、安定して運転を行うことが可能であり、かつもっともエネルギー消費量が小さくなる条件の解明を行う。 海水淡水化プロセスでは様々な方式が提案されており、プロセスにより製造した淡水の塩分濃度や、回収率(濃縮排水の量)、単位製品あたりのエネルギー消費量が異なる。提案したプロセスでは流動層を利用するのでブロアー動力分エネルギー消費量は増加するが、供給液はすべて蒸発させるので、排水は発生しない。また海水を蒸発することで淡水を製造するので、製品の塩分濃度は工業用水として利用することができるほど小さい。そこで、エネルギー消費量だけでなく、回収率や、製品の塩分濃度も考慮に入れて、それぞれのプロセスの特徴について整理する。
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