研究課題/領域番号 |
14J08313
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 航 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 里山 / 環境史 / 住民運動 / ニュータウン / 混住化 / 生物多様性保全 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究は、フィールドでの調査と学会・研究会での報告がその中心となった。フィールド調査はこれまでと同様、インタビュー調査や参与観察、史資料の蒐集による調査を中心に行った。参与観察は調査開始以来続けている里山ボランティア団体の行う活動への参与観察だけでなく、昨年度からはどんど焼きや、初午、御嶽講、盆踊りなど対象地域に伝存する年中行事にもその対象を広げた。地域住民の視点から里山を考えるとき、ただ里山を舞台にした活動の様子を知ればいいというだけではなく、そこにかかわる人々の日常生活から総合的に調査し、その中で里山がそれぞれの人にとってどのように位置づけられているのかを明らかにすることが重要であると考え、参与観察の対象の拡大へとつなげることにした。こうした現在から分かることに加え、史資料の調査分析を合わせて行い、里山の歴史についての調査を進展させた。 こうした調査をもとにして、学会・研究会での研究報告を行った。日本平和学会には環境・平和分科会という分科会があり、ここではサステイナビリティ、持続可能性というキーワードを切り口に発表を行った。近代社会のもたらした諸問題を乗り越え持続可能なポストモダンの社会を構想していくことは平和研究のテーマの一つであるとともに、里山を事例として筆者の特別研究員の研究テーマにもつながるからである。環境・平和分科会のメンバーを中心に構成される環境平和研究会でも発表を行い、上記のテーマについての議論さらにを深めた。また、コモンズ研究会でも研究発表を行い、筆者の研究対象である都市近郊という空間で里山を研究する意義、現代の里山ボランティア活動だけではなくそこにつながる地域社会の里山利用の歴史的展開について研究を深めていくことの重要性を認識することができた。 投稿論文は、多摩ニュータウン学会のジャーナル『多摩ニュータウン研究』に掲載決定され、現在印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究で予想以上の進展が見られたのは歴史資料の蒐集である。郷土資料館・市議会・図書館での蒐集はもちろんのこと、調査対象地に在住する方々が所有する古文書を見る機会に大変恵まれることができた。特に明治時代の資料に関しては体系的にまとまった文書を見ることができ、聞き取り調査では把握しきれない過去の里山利用に関する歴史的展開や住民の持っていた自然観の変容を把握することができた。これにより、調査地における人と里山とのかかわりに関する研究のうち、その歴史を掘り下げることについては、かなりの程度の進展がみられた。 こうした状況を鑑み、研究を進める優先順位の予定を変更し、今年度に予定していた歴史資料を分析した、里山の環境史の論文に関しては投稿を予定より早めて、昨年度のうちに投稿することができ、査読の結果掲載決定されるまでに至った。具体的には、明治時代から現代までの調査地の環境の変遷を、当該地域内の地名の変化を軸に研究した論文である。 史資料の調査・分析を優先し、時間を重点的にかけたため、当初今年度行う予定であった里山という言説が自然保護運動や環境政策において、どのような戦略の下で使われ、その意味内容を変化させていったのかという、里山の生物史学的研究については、当初の目標であった論文投稿にまで到達することができなかった。とはいえ、里山に関連する書籍の書籍を購入するだけではなく、各図書館において史料を渉猟する作業については進展しており、その分析作業を進めたうえで、必要に応じてインタビュー調査を加えれば、十分論文化をさせられる段階に達していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、フィールドワークやインタビュー調査、資料分析を中心とした研究となる予定であるが、博士論文をまとめるために、先行研究を集中的に読み込んでいくことにも研究の時間を充てることにする。人と自然とのかかわりによって成立した環境である里山を研究するためには、筆者の専攻である社会学だけにとどまらず、自然科学分野の研究まで含めて把握した、学際的な研究にする必要がある。そのため、社会科学の分野にとどまらず、生態学や植物学等の自然科学分野の書籍を購入し、そのレビューを行う。本年度は2年間の成果のアウトプットを行う年になるため、学会・研究会には昨年以上に参加し、必要に応じて研究報告をすることで、多くの研究者と議論を重ね、自分の研究を深めていくことを目指したい。ここでの成果をもとに、研究の核心的な理論枠組みを固めたうえ、論文投稿も積極的に行っていくことを目指したい。
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