研究課題/領域番号 |
14J08326
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋本 緑 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 沿岸性鯨類 / 生存率推定 / 混獲 / 個体群存続可能性分析 |
研究実績の概要 |
九州の天草周辺海域では,毎年ミナミハンドウイルカの背びれの写真撮影による個体識別調査が実施されている.2000年から2012年における個体識別データから,多回放流(新規撮影)多回再捕(識別済み個体の再撮影)による標識再捕法(Cormack-Jolly-Seber法)に基づいて,全識別個体と,そのうちの成熟メス,オス,性別不明個体の年間生存率をそれぞれ推定した.その結果,オスの生存率推定値が成熟メスの推定値より有意に低いことが示され,この要因として,混獲や他海域への移出の可能性が示唆された. また,鯨類の生活史特性に関する知見を文献調査により網羅的に収集した.特に,天草個体群に関して不足する,仔の生存率や,繁殖開始年齢,出生率等の生活史特性値については,御蔵島周辺やオーストラリア周辺に生息する他個体群を対象とした先行研究において報告された値を援用した. そして,各個体の生存・繁殖過程を追跡可能な個体ベースモデルを使用して個体数変動の予測を行った.本海域の個体群については,混獲の影響が危惧されており,混獲が本個体群の存続に及ぼす影響を評価するため,2歳未満の仔の生存率について,複数のシミュレーションシナリオを設定した.その結果,仔の混獲を考慮しない場合でも,3世代(60年)後の個体数は半数以下に減少すると予測された.さらに,仔に高い混獲圧がかかっており,それが今後も継続すると仮定すると,3世代後の個体数は激減すると予測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,九州天草周辺海域に生息するミナミハンドウイルカ個体群の野外調査データからの生存率の推定と,生活史特性に関する知見の網羅的な収集を目標としていた.その結果,本個体群の生存率を推定するとともに,動態モデルを構築し,将来の個体数変動予測を行う枠組みを作るまで研究を推進させたため,おおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果をもとにして,次の課題について研究を推進する予定である. 1) 他鯨類の知見を援用した生存率推定手法について検討し,野外調査データからの生存率推定値と比較することによって,その頑健性を検証する. 2) 妥当性が確認された手法に基づいて生存率を推定し,個体群存続可能性を評価する手法を構築する.本手法を天草周辺海域に生息するミナミハンドウイルカ個体群に適用し,混獲が本個体群の存続に及ぼす影響を定量的に評価する.
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