研究課題/領域番号 |
14J08330
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市原 健介 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 淡水適応 / 有性生殖 / 無性生殖 / 適応進化 / 藻類 |
研究実績の概要 |
スジアオノリ無性株(2本鞭毛型、4本鞭毛型)について、それぞれ3条件(海水条件、淡水移行後1, 24時間後)のRNA-seqをおこない、2本鞭毛無性個体で32666個のコンティグ、4本鞭毛無性個体で32237個のコンティグを得ることができた。2本鞭毛個体と4本鞭毛個体の淡水条件下での発現変動遺伝子には両株に共通する遺伝子が見られる一方で、一方の株のみで発現が変動している遺伝子も多く見出されており、同一の種ではあるものの、生殖型によって遺伝子発現調節に大きな変化が生じている可能性が強く示唆される結果が得られた。両株に共通して大きく発現が上昇する遺伝子としては2価陽イオンの輸送チャネルタンパク質が最も顕著に発現が上昇しており、これは4本鞭毛の無性株でより顕著に発現が上昇していた。また同様にアクアポリンなどの水の輸送に関わる遺伝子も両個体で発現上昇が見られた。両遺伝子は発現変動のパターンは両株で共通していたが、発現上昇の程度は海域に生育している4本鞭毛の無性株でより強いものであった。また4本鞭毛の無性株では淡水移行後に特異的にリボソーマルタンパク質関連遺伝子の発現上昇が見られた。 また所属研究室で進められている近縁種ヒラアオノリの雌雄の性染色体領域に存在する遺伝子を利用することで、RNA-seqデータから遊走細胞の鞭毛数が異なる無性個体群がともに雌雄のゲノムを有していることを明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの実験によりスジアオノリの2本鞭毛無性株と4本鞭毛無性株では低塩濃度に対する応答性、適応度が遺伝的に異なっていることが示唆される結果が明らかとなった。また無性株の出現過程に置いて、2本鞭毛の無性個体も有性配偶体の単純な倍加ではなく、胞子体での減数分裂時の特殊な機構によって生じていることが示唆される結果を得ることができた。 実験計画では有性生殖株でも進めている予定であったが予算の関係で持ち越しとなっている。しかしながらこれまでの解析から、2本鞭毛無性株と4本鞭毛無性株でも低塩濃度に対する応答性が異なっていることが明らかになっており、生殖型と低塩濃度に対する適応度に相関が有ることが示唆た。 一方で、有性生殖個体群と無性生殖個体群についての研究では、おこなったRNA-seqの情報と所属研究室の成果を参考に解析を進めることで、両無性個体群が同様のゲノム構成を持っていることや減数分裂時の特殊な経路によって生じていることを示唆する結果が得られた。また複数地点で採集した無性個体群についても同様なゲノム構成を持っていることが性染色体領域の遺伝子を用いたPCR実験から示唆されており、本研究からアオサ藻綱に見られる無性生殖個体群の出現経路についての知見が得られることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験計画は、まず有性生殖株で昨年度おこなったRNA-seqの条件で実験をおこない、無性個体群との比較を進めていく。また昨年度の四万十川採集に同行していただいた高知大・平岡准教授より四万十川で採集し、生殖型が判明している個体の標本の提供を受けられることとなった。今年度はこれらの個体を用い、RAD-seq解析を進めていく予定である。これによりそれぞれの生殖型の個体群に共有された遺伝的多型が明らかにできることが期待できる。このデータと現在、所属研究室で進められているスジアオノリのゲノム解析の結果を合わせて活用することで、生育地ごとに共有された多型(低塩濃度適応候補遺伝子)や生殖型ごとに共有された多型(有性生殖から無性生殖への転換に寄与)を得ることができると期待される。 また上記のRNA-seqから得られるであろう候補遺伝子とRAD-seqから得られる候補遺伝子を合わせて解析をおこない、例えば二種の解析ともに検出される遺伝子は適応遺伝子である可能性が高いと思われる。これらの遺伝子ではPEG法による遺伝子導入で過剰発現株、抑制株を作出し表現型の観察をおこなう。またイオン輸送隊等が候補遺伝子となった場合には培地組成を調整し、生理実験をおこなうと伴に、藻体内の各種イオン濃度の測定をおこなう予定である。
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