研究課題
本研究は口腔扁平苔癬などの口腔内に高頻度に出現する粘膜疾患の病態を組織中の元素分布分析の観点より解明することを目的に,国内の大型放射光施設を利用して遂行している。平成26年度は,放射光施設での分析における最適条件(試料の厚さやバッキング材料等)を確立し,これまで生物試料においては困難とされていた検出元素の定量評価を可能にする標準試料を作製した。また,実際の試料分析では口腔扁平苔癬(OLP)および口腔扁平苔癬様疾患(OLL)に対して研究を行った。OLP・OLLは臨床像・病理像が類似しているためその診断に苦慮する疾患である。また口腔外科領域では高頻度に遭遇する疾患で,一部の病態は癌化するとの報告もあり,両者の診断基準と現在の対症療法から脱却した治療法の確立は強く望まれている。我々の研究では,OLPやControl群では明らかな金属元素の検出が認められなかったのに対し,OLL群では歯科用材料に由来する金属成分が局在性に検出され,かつ金属状態ではなくイオン状態もしくは酸化状態で存在する傾向にあることが明らかとなった。これはOLLと歯科用合金との相関を示唆する結果であり,根治的な治療法の確立が期待される結果であった。さらに,OLPやOLLを疑う症例の場合,臨床現場では金属アレルギーパッチテストが施行されるが,これは必ずしも信頼生の高い検査ではない。そこで,ナノサイズの金属微粒子を用いて,現在使用されているパッチテスト試薬が有する欠点(高濃度金属塩水溶液,強酸性等)を克服した新規パッチテスト試薬の開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
大型放射光を用いた分析は医学応用では稀であるが,最適な分析条件を確立することができ,当初の予定よりも早期に実際の口腔粘膜疾患の分析に取り組むことが可能であった。OLPおよびOLLの有意差を認める結果は治療法の改善が期待され,また新規パッチテストの開発は実用が強く望まれる結果といえた。
口腔粘膜疾患の試料数を追加し,金属元素と口腔粘膜疾患の病態発症の機序について解明し,診断基準および治療法の確立を目指す。さらにパッチテストの実用化に向けて他金属および合金に対しての試薬を開発する。
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BioMetals
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