研究課題/領域番号 |
14J08396
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大内 梨江 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | グリオブラストーマ / がん幹細胞 / 分化 / 老化 / テロメア / テロメラーゼ / SASP |
研究実績の概要 |
難治がんであるグリオブラストーマ(glioblastoma: GBM)の悪性化および治療抵抗性の原因のひとつとして、いわゆる「がん幹細胞」の性質を有する、グリオブラストーマ幹細胞(GBM stem cells: GSCs)の存在が挙げられる。一方、染色体末端を安定に保護するテロメアはがん細胞の悪性度や分化に関与することが、我々を含む複数のグループから報告されている。そこで本研究では、テロメア動態がGSCsにおける幹細胞性の維持あるいは分化誘導にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とし、以下の検討を行った。 まず、同意を得たGBM患者由来のGSCsが、血清添加により幹細胞性・未分化性を消失し、非幹細胞性の細胞(non-stem GBM cells: NSGCs)に分化することを確認した。この分化細胞は、テロメア再生酵素であるテロメラーゼの活性を消失しており、増殖に伴って徐々にテロメアを短縮して最終的に細胞老化を起こした。老化したNSGCsは、炎症反応などに関わるいわゆるsenescence-associated secretory phenotype(SASP)因子や、血管新生に関わる血管内皮増殖因子を放出していることがわかった。さらに、血清存在下でこれらの老化細胞を継続的に培養すると、その一部が脱老化して再増殖する現象が観察された。興味深いことに、これらの再増殖細胞はSox2などのGSCsマーカーの発現を復帰させる一方、テロメア短縮を抑えるテロメラーゼの活性を有していなかった。 以上より、末端複製問題によるテロメアの機能不全が、NSGCsの細胞老化を誘導したとわかった。また、細胞老化したNSGCsは、がんの悪性化に寄与する液性因子を放出した。さらに、老化したNSGCsの一部が、再増殖する事が見いだされた。本成果は、神経膠腫幹細胞由来の老化細胞が、腫瘍全体に対して細胞非自立的な影響を与える可能性をも示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、この一年間で下記を明らかにした。 1.GSCsからNSGCsへの分化過程でテロメラーゼ活性が消失し、それに伴うDNAの末端複製問題が細胞老化を引き起こす。 2.老化したNSGCsは、SASP因子や血管内皮増殖因子を豊富に放出する。 3.老化したNSGCsの一部は、老化状態から脱却してテロメラーゼ非依存的に再増殖する。 このように、当初計画していたGSCsにおけるテロメアおよびテロメラーゼの機能的意義の解明に加え、老化した細胞がGBMの病態進展に積極的に関与する可能性を見出した。これは、所期の構想では想定していなかった新たな成果であり、GBMの難治性を説明する新たなメカニズムの解明に繋がるという点において、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
テロメラーゼの活性およびテロメア長が、GSCsにおける幹細胞性の維持ならびに分化誘導を直接制御するかについて、以下の2つのアプローチで検証する。(1)人工的なテロメラーゼ活性の増強によるNSGCsの幹細胞性・未分化性再獲得の検証(2)人工的なテロメラーゼ活性の抑制によるGSCsのNSGCsへの分化誘導の検証 また、がんの不均一性という観点から、GBMにおける老化NSGCsの役割、老化NSGCsから発生した再増殖細胞の性質とその増殖機構について以下の検討を行う。(1)老化NSGCsが分泌するSASP因子および血管内皮増殖因子などの液性因子がGSCsの増殖や血管新生を促進する可能性について検討する。(2)老化細胞から出現した再増殖細胞が、テロメア同士の相同組換えを介して増殖するalternative lengthening of telomere(ALT)機構を介して増殖する可能性について検討する。
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