研究課題
本研究の目的は、銀河とその中心にある超巨大ブラックホールの形成・成長の謎を解明するために、星間塵による減光を受けないミリ波サブミリ波帯分子輝線を用いて、銀河の熱源を診断する手法を開発することである。計画初年度は、申請者が筆頭研究者として最新の電波干渉計ALMAに観測が採択された、既知の明るい活動銀河核(AGN)であるNGC7469における高密度分子ガス観測データの解析と論文化を進めた。これは、先行研究でその可能性が指摘された、AGN天体におけるシアン化水素分子(HCN)輝線強度がホルミルイオン(HCO+)や硫化炭素(CS)の輝線強度に対して増大する現象を詳しく調べる研究である。この研究からは、NGC7469でもHCN強度の増加が確認された。さらに、その増加具合は、低光度AGNであるNGC1097よりも低いことを示した。これは、AGN周辺からの分子輝線強度比は、AGNの光度に単純依存するわけではないことを示す。この成果はIzumi et al. 2015aとして、天体物理学誌Astrophysical Journalに投稿された。また、申請者は、ALMAのアーカイブデータを用いた、熱源が既知の複数天体のHCN、HCO+、CS輝線データの解析も進めた。そして、HCN/HCO+、HCN/CSの2つの輝線強度比を用いた銀河の熱源診断図を提唱した。この手法はAGNと星形成銀河の区別に成功しただけでなく、通常のAGNと、星間物質に「深く埋もれたAGN」をも区別できる可能性があることを発見した。申請者は、こうして得られた診断図にモデル解析から物理化学的な解釈も与え、AGNの影響により特異な化学組成が実現していることを提唱した。これらの結果は、Izumi et al. 2015bとして、天体物理学誌Astrophysical Journalに投稿された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の想定よりもALMA望遠鏡による観測スケジュールに遅れが目立ったものの(天候不順のため)、近傍宇宙では貴重な明るい1型AGNであるNGC7469を用いた分光観測によるHCN分子輝線の超過現象を確認することに成功し、その成果を論文化した。ここまでが当初の年次計画で予定していた範囲である。それに加えて、NGC7469観測で得た成果を多天体の観測結果とも比較し、確かにAGNではHCN輝線の超過が見られることを明らかにした。これらの観測的成果に対して、なぜそのようなHCN輝線超過が起きるのか、物理化学的なモデルの見地に立った解析もすすめ、AGN周辺で分子ガスの化学組成が変わっていることをその要因として提唱した。この成果も論文にまとめたことは、当初の計画を超える進展である。また、数多くの国際研究会で口頭発表を重ねており、積極的に研究成果のアピールもしてきた。多くの研究者の注目も集める成果となっている。さらに、銀河中心部の高密度ガスの質量に着目したブラックホール成長機構の研究、近傍のみならず遠方銀河中のブラックホールの成長機構に関する研究も進めており、これらはもちろん当初の計画を大きく超える進展であり、かつ、平成27年度に論文化予定でもある。以上より総合的に判断して、初年度の進展は当初の計画よりはるかに進んだものであったと考える。
平成27年度には、当初の計画通り、AGNにおけるHCN輝線強度増加の原因をより深く探るため、多天体の観測をALMA望遠鏡に提案し、さらに積極的にアーカイブデータも利用することで研究を進めていく。分子輝線は複数の周波数で放射される(遷移)が、今年度はHCN、HCO+、CSをはじめとする複数分子種の"複数遷移輝線"を用いた解析を通じて、AGN周りの分子ガスの詳細な化学組成を明らかにすることを目指す。この研究により、特異な化学組成の実現が確実視されれば、申請者の提案する銀河の熱源診断法はより信頼できる手法として利用できるようになるだろう。また、平成27年度は銀河中心の高密度ガス質量に着目したブラックホールの成長機構に関する研究も進める。これはALMA望遠鏡の登場によりはじめて観測的に明らかになりつつある現象であり、長らく論争が続いている宇宙史におけるブラックホール成長機構の解明に向けた極めて重要な一歩となりうる。さらに、現在申請者はこれまで経験を積んできた近傍天体の観測だけでなく、遠方天体中の巨大ブラックホールの成長や、それが銀河環境に与える影響を探るための研究も計画・遂行している。これはハワイのJCMT電波望遠鏡を用いた観測研究で、今夏より開始する予定である。こちらもコミュニティからの期待が高く、鋭意データの解析・論文化に邁進する。
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