最終年度は、集束イオンビームにより加工したパイロクロア酸化物Cd2Os2O7の微小単結晶を用いて、単一磁壁の伝導特性の測定により、伝導特性と局所的な対称性の関係を調べた。Cd2Os2O7は227 Kの温度で金属絶縁体転移と同時にOsの磁気モーメントがall-in/all-out (AIAO)の構造に反強磁性秩序する物質である。AIAO型の磁気秩序では、時間反転対称の関係にある2種類の磁気ドメインが形成される。 1年度目には、この磁気ドメイン構造における磁壁が強磁性と電気伝導性を合わせ持つことを発見した。2年度目には、磁壁に由来する磁性を詳しく調べ、磁壁には2-in/2-out型の局所磁気配列をもつ{001}面と3-in/1-out型の局所磁気配列をもつ{111}面および{110}面の3種類が共存していることを明らかにした。2-in/2-out型の{001}面では、磁壁における非補償なスピンが互いに強的な関係にあり、±7 Tの外部磁場では全く反転しない非常に強固な振る舞いを示す。一方、3-in/1-out型の{111}面と{110}面では、磁壁における非補償なOsのスピンは互いに独立しており、自由に反転する擬フリースピンとして振る舞う。 微小単結晶において単一の磁壁に対して横磁気抵抗の磁場方位依存性を測定することで、形成された磁壁の磁気伝導効果と磁壁の方位の関係を調べた。その結果、{111}面と{110}面の磁壁では、磁壁の磁気モーメントの変動による散乱が伝導に非常に強く働くことが判明した。特に興味深いことに、局所的な対称性が異なる{111}面と{110}面の伝導特性に差が見られなかった。これは、磁気モーメントによる散乱が強く働く系(磁気揺らぎに由来する高温超伝導体等)では拡張ジグザグ格子の局所的な対称性の破れの効果が小さいことを示唆する重要な発見である。
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