研究課題
再生可能エネルギーの一つとして注目されるバイオエタノールは、現在、主にサトウキビやトウモロコシなどの可食部を原料として製造されている。このため食糧と競合しない農産廃棄物や林産廃棄物などのセルロース系バイオマス由来の糖質を原料とした製造方法の開発が期待されている。しかしながら、セルロースは結晶性を呈し化学的に安定な物質であることから、これを分解してグルコースを生成させること(糖化と呼ぶ)は容易ではない。自然界においてセルロースは主に糸状菌と呼ばれる高等真菌類により分解されていることが知られている。このため、これらの糸状菌の生産するセルロース分解酵素を用いたセルロース系バイオマスの糖化方法が検討されているが、産業化には至っておらず、さらなる効率的な糖化手法の開発が望まれている。本研究では、セルロース分解効率を高める機能を持つと予想される新規のセルロース結合性糖質酸化還元酵素を担子菌Coprinopsis cinereaから取得し、その機能解析を行っている。本年度は当該酵素(CcPDH)の遺伝子を酵母菌に組み込み、組換え酵素として大量生産し、その機能解析を行った。その結果、本酵素はヘムドメイン、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性糖質脱水素ドメイン、セルロースに結合性を示すファミリー1の糖質結合モジュール(CBM1)の3ドメインで構成される糖質脱水素酵素であることが明らかになった。PQQ依存性ドメインはPQQに対し非常に高い親和性を示し、PQQ存在下でのみD-グルコソンやL-フコースなどの糖類に対し活性を示した。これまでに真核生物においてPQQ依存的な酵素は知られていないことから,本酵素は真核生物において初のPQQ依存性酵素である。本酵素のPQQ依存性ドメインには、糖質関連酵素データベース(CAZy)において新たにAuxiliary Activities ファミリー12が割り当てられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度はCcPDHの酵素学的な機能解析を主眼とし、研究を行ってきた。本酵素の触媒活性はPQQ依存的であり、いくつかの糖類に対し活性を示した。等温滴定カロリメータを用い、本酵素に対するPQQの解離定数を求めた結果、1.11 nMと非常に低い濃度であることが分かり、PQQが本酵素に対して高い親和性を持つことが明らかになった。本酵素の様々な基質に対する活性を調べたところ、D-グルコソンやL-フコース、その他いくつかの希少糖に対して活性を示し、D-グルコソンに対し最も高い触媒効率を示すことが明らかになった。また、系統解析の結果、本酵素に類似する酵素が多くの糸状菌に広く存在することが明らかになり、本酵素が多くの糸状菌において共通して働いている酵素であることが推測された。以上のように順調に機能解析が進んでいる。
CcPDHのアミノ配列を用いた類似遺伝子の検索の結果、担子菌C. cinereaのゲノム上には複数の類似遺伝子が存在することが明らかになった。そのうちの一つであるCcPDH-Bは、既知の酵素に見られない非常にユニークな配列のCBM1を保持していた。この酵素は既知の酵素と異なる糖質吸着特性を示すことが予想されることから、その吸着特性の解明はCcPDH様酵素群の生理的な役割の解明につながる知見となると予想される。そこで平成27年度はCcPDH-Bの糖質吸着特性の解析を中心とした酵素学的な機能解析を行っていく予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Journal of Bacteriology
巻: 197(8) ページ: 1322-1329
10.1128/JB.02376-14
PLoS One
巻: 9(8) ページ: e104851
10.1371/journal.pone.0104851