研究課題/領域番号 |
14J08518
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
梅澤 究 東京農工大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | セルロース / 糸状菌 / 糖質酸化還元酵素 / PQQ / シトクロムb / CBM1 |
研究実績の概要 |
農産・林産廃棄物などの未利用セルロース系バイオマスは、食料と競合しない資源であることからその利用が期待されている。しかし、結晶性を呈し難分解なセルロースを分解してグルコースを生成すること(糖化)は容易ではない。これまでにも自然界におけるセルロースの主な分解者である糸状菌のセルロース分解酵素を用いた糖化方法が検討されているが、産業化には至っておらず、さらなる効率的な手法の開発が望まれている。本研究では、セルロース分解効率を高める機能を持つと予想される新規の糖質酸化還元酵素を担子菌Coprinopsis cinereaから取得し、その機能解析を行っている。昨年度までの研究により、当該酵素(CcPDHA)がセロビオース脱水素酵素(CDH)様シトクロムドメイン、ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性脱水素ドメイン、セルロース結合ドメイン(CBM1)の3ドメインで構成される新規ピラノース脱水素酵素であることを明らかにした。 本年度の研究では、CcPDHAがファミリー9溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO9)の電子供与体として働きうるのかを調査した。その結果、CcPDHAを電子供与体とした場合もLPMO9によるセルロース分解活性が検出され、CcPDHAがCDHと同様、LPMO9の電子供与体となり得ることが示された。一方で、本酵素のシトクロムドメイン欠損体を電子供与体とした場合には、LPMO9の活性は検出されず、電子伝達にシトクロムドメインが不可欠であることが示された。 また、本年度はC. cinereaの有するCcPDHAのアイソザイムであるCcPDHBの機能解析も行った。CcPDHBは糖質への吸着に重要な芳香族アミノ酸の一つがヒスチジンとなるユニークなCBM1を有している。本酵素のセルロースへの吸着能を調べたところ、セルロースへの吸着は見られず、既知のCBM1と異なる吸着特性を有していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はLPMO9への電子供与体としてのCcPDHAの機能解析を行った。本研究からCcPDHAはLPMO9の電子供与体として働きうることが示された。また、シトクロムドメイン欠損体を用いた実験から、本酵素からLPMO9への電子伝達にはシトクロムドメインが不可欠であることを明らかにした。さらにHPAEC(陰イオン交換クロマトグラフィー)を用いて、CcPDHAの反応生成物とLPMO9の反応生成物が同時に定量可能であることが示された。 また、本年度はユニークなCBM1を有するCcPDHBの酵素学的機能解析を行った。本年度の研究では、本酵素の基質特異性、pH依存性、スペクトル特性を明らかにした。一方、本酵素のCBM1はセルロースに対して吸着能を示さなかったことから、既知のCBM1と異なる糖質吸着特性を有していることが示唆された。 また、来年度に計画しているCRISPR/Cas9システムを用いたCcPDH遺伝子のノックアウト株の作出に向け、プラスミドの設計を行った。ヒト細胞用に設計されたCRISPR/Cas9システム用プラスミドであるpX330のプロモーター配列、ターミネータ配列をC. cinereaの配列に置換し、C. cinerea用のプラスミドに再設計した。 以上のように、本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、CcPDHAとLPMO9の反応生成物はHPAECにより同時定量が可能であることが示された。次年度は、この測定方法を用い、これらの酵素の反応速度論的解析を行い、LPMO9の電子供与体としてのCcPDHAの評価を行う予定である。 また、CcPDHBのCBM1はセルロースに対する吸着能を示さなかったことから、他の多糖に対する吸着能を有する可能性が考えられる。そこで、次年度は本酵素のCBM1のキチンやヘミセルロース多糖に対する吸着能を測定する予定である。 また、CRISPR/Cas9システムを用いたCcPDH遺伝子のノックアウトを行う予定である。得られたノックアウト株は種々の炭素条件下で培養し、CcPDHの機能の特定につながる知見を得る予定である。
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