研究実績の概要 |
特任研究員としての三年間、確率アレン・カーン方程式に対する鋭敏な界面極限に関する研究を行った。アレン・カーン方程式とは、十分小さいε>0によりパラメータ付けされた双安定な反応項を持つ反応拡散方程式のことであり、相転移現象、界面モデルなどの物理現象を記述する。このパラメータは界面の幅に関係している。興味の対象は界面の幅が限りなく小さくなり界面の形状が鋭敏となった時の解の挙動である。この極限を鋭敏な界面極限と呼ぶ。特に確率項の加わった確率アレン・カーン方程式に対して鋭敏な界面極限の考察を行なった。以下、第三年度にて行った研究に関する概略を述べる。 前年度に引き続き、ディリクレ境界条件u(±1)=1を持つような空間1次元確率アレン・カーン方程式を考察した。境界でピン留めされていると見做せるため、境界条件が無限遠点にある場合と比較して、界面の挙動は反射壁をもつブラウン運動になることが予想される。我々はこの方程式の解をL2[-1,1]-値のマルコフ過程と見なし、この解に対応するディリクレ形式のモスコ収束を示した。これらの議論から、極限における界面の挙動が反射壁ブラウン運動になることを示した。さらに去年は定常解に対して結果を示したのに対し、今年は非定常解への結果の拡張を行なった。 また、これまでの研究に関連する数値シミュレーションを行った。特に、空間1次元の場合、空間多次元の場合、空間多次元かつ保存則が満たされる場合を扱い、得られた結果を博士論文内で取りまとめた。特に空間多次元かつ保存則が満たされるシミュレーションは、ノイズを付加すると界面の消滅が一瞬のうちに発生する様子が観察された。
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