研究課題/領域番号 |
14J08637
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
松川 雅信 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 儒教 / 朱子学 / 『家礼』 / 崎門派 / 近世日本 / 喪祭儀礼 |
研究実績の概要 |
本年度の研究成果としてはまず、前年度来とり組んできた崎門派儒家蟹養斎の儒礼論に関する論文を『日本思想史学』47号に掲載したことが、最も大きな成果である。本研究課題が対象に据えている、朱熹『家礼』をはじめとする儒教儀礼に関しての思想史研究は未だ研究蓄積の浅い分野であり、かつ蟹養斎という人物についても紹介はされていたものの、その思想内容にまで踏み込んだ専論はほとんど皆無の状態であった。そうした意味では、本論文が斯学に占める位置は決して小さくないと思われる。 そのうえで本年度はさらに、上述の蟹養斎の門弟達(=尾張崎門派)の間にあって、彼の儒礼論がどのように継承・発展されていったのか、という論点に絞って検討を進めた。名古屋地域を中心とする様々な資料館・図書館に眠る関係史料を悉皆調査し、これらを分析した結果、養斎の儒礼論はその後の門弟間でも様々なネットワークのもとで幕末期・明治期に至るまで継承されていた、ということが明らかとなった。加えて、名古屋地域の寺院墓所等のフィールド調査を行ってみると、形式は仏式であるものの、明らかに儒式の葬祭儀礼の影響とみられる儒家の墓石等も散見され、養斎の儒礼論は言説の次元に止まらず、実際に実践されていたということも明らかとなった。 従来、近世日本には儒教の儀礼的側面は全く受容されなかったと考えられてきたが、こうした通説には大幅な修正が施される必要があることが、本年度の研究成果から改めて瞭然となったのである。なお、各研究成果については、近世史サマーセミナー・韓国日本近代学会・東アジア宗教研究フォーラム等において適宜発表し、参加者の支持を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題は、近世日本における朱熹『家礼』の受容とその実践の様相を、崎門派と称される儒学派に即しながら、思想史研究の立場によって明らかにするという点にある。『家礼』の近世日本における受容状況は、これまであまり注目されておらず、加えて崎門派という儒学派に関しても、その近世を通じた影響力の大きさについては指摘されてきたものの、近世前期に考察の主眼が置かれがちで、近世中後期以降の展開についてはさほど論じられてこなかった。 しかしながら本研究では、これまで全く専論のなかった尾張崎門派という近世中期から明治にかけてのグループが『家礼』をめぐる議論やかかる実践を広く行っていたという点を明らかにすることができた。このことは、近世日本における『家礼』の受容状況を明らかにし得たのみならず、未だ位置づけが難しい崎門派を、『家礼』という視点から近世日本に位置づけ直し得るという視点を提起し得るものと思われる。このように当初の研究課題に即して、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題については概ね達成に近づきつつあるが、今後はさらに完成度を高めるべく、主に以下二点に注目しながら研究を行っていく。 一つは、これまで明らかにしてきた尾張崎門派による儒礼実践を、他の事例との比較検討によって、より一層仔細に位置づけていくという点である。具体的には、ほぼ同時代に上総地域で同じく儒礼実践の問題に取り組んでいた、上総道学のグループに注目することで、この問題を明らかにしようと試みる。 いま一つは、近世日本における仏教・神道をはじめとする既存の宗教儀礼と、『家礼』との相互影響関係という問題である。神道との関係性については夙に、神儒一致が論じられることが多いが、葬送・祭祀といった問題に限っていえば、一般に対抗関係として位置づけられることの多い、仏教との間にも混交的な状況が見出されるのではないか、という目論見のもとこの問題を明らかにすることとしたい。 そして以上二点の問題を明らかにしたうえで、博士論文を執筆・提出することが最終的な目標となる。
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