最終年度となる本年度は研究の総括として、新潟県十日町市松代・松之山地域での調査をまとめた『研究成果報告書(以下、報告書)』を作成し、調査地をはじめとする関係各所に配布をした。報告書では本研究の理論的枠組みを示すとともに3年間の論文化した研究成果と、政策提言を含む論考を加えて研究をまとめた。また、出稼ぎや転勤といった就労に関する過疎・高齢化地域から都市部への移住、加齢による地域外への移住、地域おこし協力隊などの制度や地域活性化イベントを機にした地域への移住、1970年代から続いてきた豪雪地ゆえの冬期間の高齢者の移住など様々な移住のあり方を明らかにし、そうした居住経験をもつ人びとを時代背景とともに民俗誌的に記述した。さらに、移住を含む多様な居住形態を可能にする行政等の制度や地域や家族のあり方について論じた。そして過疎・高齢化地域においては常に人々が地域に定住していることではなく、出稼ぎや進学などで一次的に地域を離れつつも、再び地域に戻ってくるような流動性を地域が担保し、経済面でも文化面でも一度、移住していった人びとを受け入れる体制があったことで地域コミュニティが維持されてきたことを明らかにした。 近年、過疎・高齢化地域への定住を目指し、様々な手法で地域の活性化が試みられているが、観光や開発に偏った地域活性化のアプローチは関係人口の増加に繋がっても定住には至らないといった限界が指摘されている。本研究では、過疎・高齢化地域で出稼ぎや進学等で都市部に出て行った人びとと過疎・高齢化地域の人びととのネットワークが形成され、都市部で稼いだ賃金が地域の農業の振興を進め、都市部の人的ネットワークが農産品の販売ルートになったことを指摘した。すなわち、過疎・高齢化地域に残るという選択をした人びとは都市部からの資金や、都市部とつながる人的ネットワークを基に地域に生きることを模索してきたのである。
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