本研究の目的は、回族によるイスラーム復興運動が、他民族・非ムスリムと共同し、より広い「公益」を志向する社会運動として展開してきたプロセスを描き出すことで、宗教や民族を越えた公共性のあり方を論じ、新たな理論的モデルとして提示することである。 以上の目的を達成するため、ボルドー政治学院Les Afriques dans le mondeにおいて客員研究員として在外研究を実施し、グローバルに進展するイスラーム復興およびイスラームと公共性をめぐる理論的研究、およびそれを踏まえたこれまでに収集した調査データの分析を進めた。その結果、本研究課題が対象とする雲南省におけるイスラーム復興運動をグローバルなイスラーム言説に位置づけ、それとの関係において当該運動における「公益」の生成のプロセスを明らかにすることを試みた。 その成果は、単著『現代中国の〈イスラーム運動〉――生きにくさを生きる回族の民族誌』(風響社、2016年)および査読論文「動きのなかの自律性 : 現代中国における回族のインフォーマルな宗教活動の事例から」『文化人類学』80巻3号(2015年)として発表した。また、その成果を5つの国際会議で発表し、研究成果の国際的な発信に努めると共に、国内の研究会で発表を行った。
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