研究課題/領域番号 |
14J08700
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
中野 歩美 関西学院大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 南アジア / インド / 文化人類学 / 移動 / カースト / 生活実践 / 親族関係 |
研究実績の概要 |
本年度は、年度の初めからインドに拠点を置き、本研究を遂行する上で最も重要といえる文化人類学的な現地調査を、インド北西部ラージャスターン州のタール砂漠地域において継続的に実施してきた。 具体的には、2014年の4月~2015年1月頭までの約9カ月間に、ジャイサルメール県、バールメール県、ジョードプル県内に位置する13のジョーギーの集落と、5か所の野営地を訪れてインタビューと参与観察を実施した。調査日数は、それぞれの場所で、最低数時間から最大数週間程度滞在し、その後も電話での連絡や再訪を通じて、当地のジョーギーたちとの間にラポール形成を図ることを意識しながら、柔軟な計画のもとで進められた。 タール砂漠地域での調査では、現地のさまざまな人びとと関わるなかで、ジョーギーたちの置かれた社会的状況を少しずつ自身の肌で感じ、理解していきながら、この研究の中心的な問題関心である、ジョーギーたちが移動という彼らのスティグマの核心となっている生活実践をどのように捉え、実践しているのか(いたのか)について、彼らと同じ地平に立って少しずつ汲み取るべく努めてきた。 そこで明らかになってきたのは、彼らがかつて移動していたころの生活実践を現在も放棄したわけではないこと、特に、現在も婚姻を通じた姻族関係の形成と維持という実践によって立ち現れる緻密で複雑な親族関係網のなかに、彼らの生活の場が作り上げられているということであった。 また、その一方で、2000年代に入り、NGOを媒介として、親族関係とは対照的とも思えるような新たなつながりが構築されつつあることも分かってきた。現在、調査地のジョーギーたちは自らの集団範疇のもつ政治性を認識しており、それに関する権利の問題に声を上げはじめている。今後、このような新たなネットワークについても、集約的な調査を通じて、より詳細を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度を自分なりに評価するとすれば、当初計画していたインド・タール砂漠地域における文化人類学的な現地調査は、およそ10か月のインド滞在のなかで、多少の困難はあったものの無事に遂行されており、おおむね順調に進展してきたといえる。 評価区分の具体的な理由としては、(1)かつて移動生活を営んでいたジョーギーの人びとが、どのようにしてグローバル資本主義が進出しつつあるタール砂漠地域の現代の生活世界に、世代を跨いで引き継いできた自らの知恵や実践を取り込んでいるのかについて、現地調査の中から着想を得て観察することができた点、(2)ジョーギーの人びとと親密な信頼関係を築くまでに想像よりも時間がかかったため、調査で収集したデータの質と量がまだ十分とはいえない点、を総合的に鑑みた結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、昨年度に引き続いて、インド・タール砂漠地域での集約的な補足調査をおこない、ジョーギーの人びとの親族的な結束の拡がりと、2000年代以降に新たに創出された社会的なつながりの拡がりという二点について、聞き取り調査と参与観察を通じて、より多面的で厚みのある分析を可能にするための、さらなるデータ収集を実施していく予定である。 調査を終えて帰国した後は、それまでに収集した具体的なデータを整理していくこととなるが、その際、特に親族関係については、必要に応じて図式化し、より理解可能な形で示したうえで分析と考察を進めていきたい。 これに並行して、こうした大きな問題意識を補い敷衍していくような、ジョーギーの人びとの日常実践に関するその他の民族誌的トピックについても詳細にデータを整理し、論文の作成に真摯に取り組んでいく。
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