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2015 年度 実績報告書

〈二世〉から見るブエノスアイレス都市社会の編成と変容:移民と市民の人類学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 14J08713
研究機関東京大学

研究代表者

石田 智恵  東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2014-04-25 – 2017-03-31
キーワードアルゼンチン / 失踪者 / 日系人 / 司法人類学 / 移民 / 歴史人類学
研究実績の概要

昨年度の研究成果をを受け、1970年代アルゼンチン最後の軍事政権による「強制失踪者」創出に関する諸問題および社会的政治的論争と、人種・民族問題(移民問題)とのかかわりを、日系移民コミュニティ内部で1970年代にみられた「二世運動」と「日系失踪者」に注目して考察することを研究課題として再設定した。
その結果、以下の2つの論点において特に進展があった。
(1)「人権問題」と総称される「失踪者」問題について、特定の出自(人種・民族)が論点になることはまれであり、これはアルゼンチンの国内政治における人種・民族問題の「タブー」視と結びついている。「日系失踪者家族会」の活動やそれに関するさまざまな反応を調査考察した結果、政治運動のなかで不可視化されてきたマイノリティの位置づけが浮かび上がった。親族たちが「日系」の出自を明示して組織化・運動しなければならない事実は、特定の出自に対する社会的抑圧の持続を示唆している。この点に、アルゼンチンにおける人種・民族問題と政治の複雑な歴史的関係を解き明かす手がかりが見いだされる。
(2)民主化から30年以上が経ち子世代の重要性が増し、運動や公的私的な取り組みについての研究も多様化するなか、人類学的研究は、現代市民社会における「失踪」を死の概念やその儀礼と結びつけた議論、アルゼンチン法人類学チーム(EAAF)を中心とした「失踪者」の遺体の捜索・身元確定の作業、官僚機構における「失踪」の管理・記録(の抹消)・個体識別技術などに関する議論を展開してきた。これを踏まえ、2015年度は、「日系失踪者」のうち遺体が発見され死亡が確認された2人のケースにとりわけ着目し、司法人類学を含む司法科学と「同一性」の政治、「失踪」と「死」の関係などについて調査研究を進めた(2人の家族および2人の身元確認作業を担当したEAAFメンバーへのインタビューを含む)。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

当初の計画では、本研究の主題は日系コミュニティと他の移民系コミュニティの「二世」の位置づけの比較を通じたブエノスアイレス都市社会の近現代史の新たな側面をとらえることであったが、1年目の調査研究の結果、異なる移民コミュニティの比較を軸とするよりも、1970年代の軍事政権による政治暴力「強制失踪」の方法をめぐる当時から現代までの国家・社会の取り組みや議論を取り上げることがより重要かつ有意義であるという見通しを得て、計画に変更を加えて調査を行なってきた。その結果、1970年代をめぐるアルゼンチン国内の論争における移民(人種・民族)問題の不在を、アルゼンチン社会の根深い伝統として近年指摘される、政治における移民問題のタブー視と結びついたものと捉え、これまで十分に議論されてきたといえない論点を提示することができたといえる。さらに、「失踪者」の遺体捜索・身元確定をめぐる司法人類学者の活動をとりあげることで、現代市民社会における個人の生/死、人種、同一性の関係についての議論を今後さらに深めることができると考える。
以上のように、近過去と深く結びついた今日的な主題を通じて、人類学および人種・移民研究の議論の発展にも大きく寄与する可能性が見込まれることから、本研究の進捗状況は当初の計画以上のものと考える。

今後の研究の推進方策

2016年度は、2014年度、2015年度の調査で得られた資料(文字資料、インタビュー記録)の分析と、文献研究、およびこれらをふまえた成果発表により重点を置く。翌年度以降さらに、20世紀後半以降の世界各地での紛争や災害、暴力の「その後」をめぐる司法科学の可能性についての最新の議論をフォローし、移民論、人種論の観点からいかなる寄与が可能かを考察していくことを念頭に、文献研究を進める。同時に、アルゼンチン・ブエノスアイレス大学の移民研究グループなど海外の研究者とのあいだで進めている共同研究の持続・発展を試みる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 軍政下アルゼンチンの移民コミュニティと「日系失踪者」の政治参加2016

    • 著者名/発表者名
      石田智恵
    • 雑誌名

      コンタクト・ゾーン

      巻: 7 ページ: 56-82

    • DOI

      http://hdl.handle.net/2433/209809

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 「失踪」と「死」のあいだ2016

    • 著者名/発表者名
      石田智恵
    • 学会等名
      日本文化人類学会第50回研究大会
    • 発表場所
      南山大学名古屋キャンパス (名古屋市 昭和区)
    • 年月日
      2016-05-28 – 2016-05-29
  • [学会発表] La situacion de las minorias etnicas en el Japon actual2016

    • 著者名/発表者名
      Chie ISHIDA
    • 学会等名
      Mesa Tematica sobre “Cultura en el Japon Contemporaneo”, Facultad de Ciencias Sociales - UBA
    • 発表場所
      Buenos Aires (Argentina)
    • 年月日
      2016-03-10
    • 招待講演
  • [学会発表] The past and the present for Families of the Disappeared in Japanese Community in Argentina2015

    • 著者名/発表者名
      Chie ISHIDA
    • 学会等名
      The XXXIII International Congress of the Latin American Studies Association
    • 発表場所
      San Juan (Puerto Rico)
    • 年月日
      2015-05-27
    • 国際学会
  • [学会発表] 「伝統の破壊」と「社会への統合」のあいだで――アルゼンチン「日系失踪者家族会」の活動2015

    • 著者名/発表者名
      石田智恵
    • 学会等名
      日本ラテンアメリカ学会西日本部会
    • 発表場所
      京都大学地域研究統合情報センター (京都市左京区)
    • 年月日
      2015-04-18

URL: 

公開日: 2016-12-27  

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