持続可能な農場が求められる中でも、多くの生産者は病害虫以外の土壌微生物も死滅させる農薬・土壌くん蒸剤を使っている。くん蒸剤によって土壌微生物の多様性が失われた圃場で起こり得る、病害虫の爆発的増加に着目した。 群馬県こんにゃく圃場の土壌をメタンソディウム(MS)またはクロルピクリン(CP)で室内くん蒸し、直後に土壌のATP含量、培養可能細菌、糸状菌密度を測定した。結果、MSの方がCPより微生物バイオマスに与える影響が大きく、そしてくん蒸による微生物バイオマスの減少は細菌による影響が高いことが示唆された。 くん蒸土壌を用いてキュウリ苗立枯病(Pythium aphanidermatum)の接種試験を行った。CP区の方がMS区より発病曲線下面積が高い傾向にあり、土壌の病害抑止能を低下させる作用はCPの方がMSより高いことが示された。 群馬県こんにゃく圃場土壌を採取し、硝酸態窒素およびアンモニア態窒素を測定した。土壌中の硝酸態窒素はCPの方がMSより少なかったことから、CPの方が細菌を殺菌する効果が高い傾向は、硝化菌についても言えることが示唆された。 以上より、MSよりCPの方が殺菌効果が高く、P. aphanidermatumの発病リスクを高める可能性があることが明らかになった。本研究の最終目的はどのような土壌条件、防除方法であればリサージェンスを抑制できるのか明らかにすることであった。キュウリ苗立枯病についてはMSを使用した方がくん蒸後のリサージェンスを抑制できる可能性が示唆されたが、同時にMSの殺菌効果、特に培養可能細菌に対する効果はCPより低いことが示された。くん蒸剤の本来の目的である土壌病害虫の殺菌効果については明確な比較結果が得られなかったため、どの程度の病害虫汚染土壌であればMSを使用する方が有益であるかについては、結論を出すことが出来なかった。
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