研究課題/領域番号 |
14J08867
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
縣 亮一郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 高詳細有限要素モデル / 津波解析 / 地殻変動解析 / ハイパフォーマンスコンピューティング |
研究実績の概要 |
本年度は,交付申請書「(A-1)断層状態推定の高度化」を達成するための基礎研究として,長期間にわたる地殻変動の,有限要素法を用いたコンピュータシミュレーション手法を開発した.日本列島全体の地殻変動を解析する場合,大きな領域に対して複雑な地殻構造を再現した詳細な計算用メッシュ(以下高詳細モデル)を生成し,そのメッシュを用いて解析を行う必要がある.そのための計算量が大きなものとなるため,京コンピュータ上での解析手法の開発・実装を行った.次に開発した手法を,東北地方太平洋沖地震後の日本列島の地殻変動解析に適用した.地震後に陸域・海底で観測された地殻変動データは,本研究の手法を用いて定性的にある程度説明可能であった.一方,地震防災上重要な問題のひとつである津波高さ想定においては,震源断層に対する海底面の上下変動の解析(以下津波波源解析)を行い,次に与えられた震源断層に対する津波の順解析を行う,という手順が用いられる.「(A-1)断層状態推定の高度化」にかかわる解析結果から,津波波源解析に高詳細モデルを導入することで,想定結果に大きな影響がある可能性が示唆された.これに基づき,今年度下半期において,詳細な津波波源解析に基づいた津波解析を行うための準備を進めた.具体的には,南海トラフ地震震源域を対象に高詳細モデルを作成し,与えられた震源断層モデルに対する海底の上下変動解析を行った.その結果を,海底面が平坦で,物性値が均一であるモデル(単純化モデル)と比較したところ,双方の結果の差はかなり大きく異なることがわかった.現在は,津波解析のためのシミュレーションコードを作成し,上記の津波波源解析結果を入力とした津波解析を行っているところである.試験的解析の限りでは,高詳細モデルと単純化モデルにおける沖合での波高が最大で数割程度変化する可能性が示唆されてきている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には日本列島の粘弾性変形解析手法の開発・適用を予定しており,手法開発部分については順調に研究を遂行した.適用の中の,計算結果の観測データとの比較においても,地殻変動現象自体の知見を蓄えるのに時間を要した一方,最終的には一定の成果を得ることができ,投稿予定の論文での議論に厚みをあたえることができた.その議論からは,日本列島の粘性パラメータ推定という新たな問題を見出し(次項参照),検討を始めた.また自身の発表済みの論文の結果を,地震防災上の重要な問題である津波高さ想定に対する研究につなげた.研究業績としては,査読付き論文二編の登載と国内外で7回の発表があった.また査読付き雑誌に投稿済み,あるいは投稿準備中の論文が数篇あることなどから,本研究はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】での日本列島地殻変動解析においては,地殻構造の内アセノスフェア(地中の深さ数十km~数百km に位置する)に粘性パラメータを設定し,粘弾性的な振る舞いを考慮する.昨年度の研究では,解析の際のアセノスフェアの粘性パラメータの決定が難しいことが示唆された.そのため,本解析手法解析と地殻変動観測データを用いて,より適切な粘性率の設定が可能と考え,今年度終盤に検討を開始した.これまでに,事前に設定した粘性パラメータを用いて地殻変動観測データを人工的に生成し,そのデータから設定したパラメータを推定する,という双子実験を行っており,本年度にはこの検討をさらに進める.具体的には,計算の高速化,最適化手法の高度化,実問題への適用などを予定している.これは申請書「(A-2) 地震サイクルシミュレーション」に必要な検討となる.また,【研究実績の概要】での津波解析を,他研究者との協力により高度化し,高詳細モデルの導入が津波の高さ想定に与える影響を詳細に検討する予定である.
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