筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上位、並びに下位運動神経に特異的な神経変性疾患である。僅かな生存期間の延長が期待されるリルゾールや運動機能の改善が期待されるエダラボンの投与、リハビリテーション、食餌療法などがあるが、根本的な治療法がなく、約半数の例では発症後2~5年で主に呼吸障害によって死亡する。そのため、革新的な治療法の開発や詳細な発症メカニズムの解明が求められているが、最近、ALSの発症は運動神経と骨格筋をつなぐ神経筋接合部(NMJ)における運動神経軸索の離脱や退縮に始まるとするモデルが提唱された。そこで、発症後のALSモデルマウスにおいてNMJ形成促進タンパク質であるDok-7の発現を人為的に増強することによって、NMJからの運動神経の離脱・退縮を抑制し、その運動機能を改善する新規治療技術の有効性を着想し、その開発を本研究の目的とした。 既に、当研究室ではヒトDOK7発現アデノ随伴ウイルスベクター(AAV-D7)の投与によるNMJの形成促進効果(拡張効果)を野生型マウスにおいて実証している。この知見を踏まえ、本研究では大量調製したAAV-D7を発症後のALSマウスに尾静脈投与し、全身性にヒトDOK7を発現させた。その後、ALS病態に対する効果をNMJの免疫蛍光染色、筋肉組織のHE染色、脊髄のニッスル染色、運動神経軸索の免疫染色による病理組織学的解析と生存期間や自発運動量の測定などにより検討した。その結果、治療群において有為な生存期間の延長効果、NMJの拡張効果、並びに筋委縮の改善効果を確認し、また、自発運動量の増加を見出した。これらのことはNMJ形成の人為的な増強がALSに対する有望な治療法となりうることを示唆している。
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