本研究では、難水溶性薬物の水溶性・水分散性を高め,その生物学的利用能を高める技術として,難水溶性薬物と複合化してその水溶性を高める自己組織性の短鎖ペプチドを開発することを目的としている。 本年度は末端フリーのYQEPVLGPVRGPFPIIV(PepY-OH),VVVPPFLQPEVMGVSKV(PepV-OH)およびKFQSEEQQQTEDELQDK(PepK-OH)をFmoc固相合成法により合成し,これら3つのペプチドとパクリタキセル(Ptx)を複合化し,複合体調製時のペプチド量を検討した。Ptxの水分散性は親水性の高いPepK-OHではほとんど改善されなかったが,PepY-OHおよびPepV-OHとの複合体は調製時のペプチド濃度が増加するほど増大した。PepY-OHについては,PepY-NH2よりもその複合体の水分散性は減少したが,PepV-OHについては,PepV-NH2と比較してその複合体の水分散性は著しく改善された。これらの結果から,Ptxと複合体を形成するペプチドのC末端のカルボキシ基がその複合体の水分散性に大きく関与していることが示唆された。 2016年10月より,Yale大学(米国)では主に肝臓における薬物動態の研究を行った。Nogo-BのsiRNAを含有するPLGAナノ粒子溶液をマウスあるいはマウス由来の細胞株を用いてNogo-Bの発現量を比較した。マウス由来のマクロファージや肝星細胞の細胞株を培養し,PLGAナノ粒子の処理時間をそれぞれ24時間,48時間および96時間としてNogo-Bの発現量をコントロール群と比較したところ,いずれの場合も大きな差異は認められなかった。一方で,PLGAナノ粒子を静脈投与したマウスの肝臓からタンパク質を抽出し,Nogo-Bの発現量を比較したところ,コントロール群よりもNogo-Bの発現量について有意な減少が認められた。
|