研究課題/領域番号 |
14J08911
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
細野 香里 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | マーク・トウェイン / 人種 / 他者表象 / 南北戦争 / P・T・バーナム / 見世物文化 / 奇形 |
研究実績の概要 |
本年度は、マーク・トウェインによる『間抜けのウィルソンとかの異形の双生児』 (1894年)における取り換え子とシャム双生児のモチーフについて、それぞれ人種の問題と関連付けて掘り下げた。二部構成の本作品のうち、中編「間抜けのウィルソン」では白人と黒人の赤ん坊の取り換えが行われる。これは、イギリスの民話で「妖精との取り換え子」として頻繁に登場するモチーフであり、トウェインと同時代のヴィクトリア朝期の英国知識人たちはそれらの民話について(擬似)科学的・民族学考古学的・病理学的説明を試みていた。その言説には、当時の他者(奇形・異人種)への態度が反映されている。そこで「取り換え子」のモチーフを軸に、「間抜けのウィルソン」をアメリカ版妖精民話として読む可能性を探った。シャム双生児のモチーフについては、作中に登場するイタリア人のシャム双生児の二組のモデルのうち、チャンとエンに注目した。そして彼らの中国系のルーツと、見世物業で成功した後、大農園主となり奴隷を所有していたという伝記的事実に着目し分析を行った。これらの着眼点は、従来アメリカの白人・黒人を巡る人種問題の文脈から解釈されてきた本作品に新たな光を当てるものである。 加えて、『間抜けのウィルソンとかの異形の双生児』と同年に発表された『トム・ソーヤーの外国旅行』へと研究対象作品を広げた。本作品は『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885年)の続編群の一つであり、『間抜けのウィルソンとかの異形の双生児』と同じく、トウェインの故郷ハンニバルをモデルとした南北戦争以前の南部の田舎町を物語の最初の舞台としている。しかし本作品を特異なものにしているのは、トム、ハック、ジムが気球に乗って大西洋を越え、サハラ砂漠、エジプト、聖地を巡るという筋立てである。ここからトウェインがいかにアメリカ国内の人種問題をオリエント世界に舞台を移して描いたかを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で記述した内容は、すべて論文の形にまとめ、あるいは研究発表を行う形で外部に発信し、フィードバックを受けている。さらに、海外研究として、2015年3月16日から22日にかけて、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館のマーク・トウェイン・ペイパーズを訪問し書簡の分析を行った。トウェインと興行師P・T・バーナム(1810‐91年)との関係性を探るため、収蔵されているトウェイン宛のバーナムからの手紙(1870年から81年にかけて、現時点でオンラインでの閲覧不可)を分析した。このように、年度ごとの割り振りは多少前後するものの、研究実施計画に則って研究を遂行し、進展させることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館での分析結果をもとに、見世物や大衆へのアピール法というキーワードを軸にトウェインとバーナムの関係性を掘り下げて考察する予定である。また、本年度扱った「取り換え子」のモチーフは、16世紀イングランドを舞台とした『王子と乞食』(1881年)で既に用いられているので、こちらも分析し、『ハックルベリー・フィンの冒険』続編群と合わせてさらに研究対象作品を広げてゆく。 加えて、南北戦争以前の作家、特にエドガー・アラン・ポー(1809‐49年)との関連性を人種の観点から考察し、19世紀を通じた人種と奇形の意識史を理解する上での足掛かりとする。
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