研究課題/領域番号 |
14J08911
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
細野 香里 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | Mark Twain / Edgar Allan Poe / African American / Slavery / Civil War / Native American / American Frontier / P. T. Barnum |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度にカリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館内マーク・トウェインペーパーズにて行ったトウェインと興行師P・T・バーナム間の書簡研究の成果を踏まえ、トウェインの初期短編「ジョージ・ワシントンの黒人従者」(1868年)と、バーナムの見世物「ジョージ・ワシントンの151歳の黒人乳母、ジョイス・ヘス」を軸として両者が共有した語り/騙りの技術、そして見世物化されるアフリカ系アメリカ人の身体を考察した。 また、昨年度から研究対象としていた『トム・ソーヤーの外国旅行』(1894年)の分析を続け、さらに2つの観点から議論を深めた。一つは、エドガー・アラン・ポーと気球譚の系譜である。19世紀アメリカにおける人種を巡る意識史を考察するにおいて、南部出身の作家エドガー・アラン・ポーを無視することはできない。これまで人種の観点からの分析が多くなされてきたポーとトウェインの関係性を、両者が共に固執し執筆してきた気球譚の系譜を通じ探求した。二つ目は、トウェインの人種を巡る葛藤とフロンティア-オリエントの表象である。昨年度の研究成果をもとに、作中における擬似的オリエント世界の表象についての分析を深め、トウェインがいかにアメリカ国内の人種問題をオリエント世界に舞台を移して描いたかを考察した。 合わせて、『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885年)の後日譚として執筆されるも未完に終わった中編小説「インディアンの中のハックとトム」(未完)におけるネイティブ・アメリカン表象へ着目し、研究対象となる作品を広げた。このトピックについては、今年度の3月に再訪した上述のマーク・トウェイン・ペイパーズに収蔵されている資料を分析し、またトウェインのネイティブ・アメリカン観について現地の研究者から示唆を得た。今後、この分析結果をもとに、作品分析をさらに深める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で記述したように、年度ごとの研究実施内容の割り振りは前後する部分もあるものの、前年度からの課題を踏まえたうえで、研究実施計画に則って研究を遂行し進展させることができている。さらに言えば、当初の計画以上に研究対象(扱うマーク・トウェイン作品や同時代の作家)の射程を広げ、深く分析することができている。これらの内容は、すべて論文の形にまとめ、あるいは研究発表を行う形で発信し、外部の研究者からのフィードバックを受けている(論文については今後発行予定のものも含む)。また、海外研究もコンスタントにこなし、成果を自身の研究に反映させるだけではなく、現地の研究者との交流を着実に深めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、今年度に行ったカリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館での資料収集成果をもとに、中編小説「インディアンの中のハックとトム」(未完)におけるネイティブ・アメリカン表象を掘り下げて考察する予定である。また、本作以外の『ハックルベリー・フィンの冒険』の続編群「トム・ソーヤーの探偵」(1896年)「トム・ソーヤーの陰謀」(1897年)や、初年度に扱った『間抜けのウィルソンとかの異形の双生児』(1894年)と同じくミシシッピー川沿いの田舎町を舞台とする『それはどっちだったか?』(1966年、死後出版)へと研究対象作品を広げる。これらの作品は、「ミシシッピーもの」として区分することができる。その共通点は、トウェインが幼少期を過ごした故郷であり奴隷のいる共同体であったハンニバルが、作品舞台のモデルとなっていることである。これらの作品群を研究対象として取り上げることで、トウェインの幼少期から青年期のアフリカ系アメリカ人嫌悪、社会制度としての奴隷制の受容と、それに対する青年期以降の反省というトウェインの人種観の変遷をたどり、さらなる分析をすることが可能となる。
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