本年度も『トム・ソーヤーの外国旅行』(1894年)分析を続け、トウェインの人種観、そしてエドガー・アラン・ポーと気球譚の系譜についての考察を深めた。また、昨年度に引き続き『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885年)の後日譚として執筆されるも未完に終わった中編小説「インディアンの中のハックとトム」におけるフロンティア表象とトウェインのネイティブ・アメリカン観の分析を深めた。具体的には、トウェインがいかに作中のネイティブ・アメリカン像を創作したかを、参照したとされる同時代の西部探検の手記や、彼自身の西部への旅の記録を参照し確認したうえで、トウェイン自身のネイティブ・アメリカン観の変遷を短編小説や手記での言及を追って整理した。さらに、トウェインの人種観が作品舞台である未開の荒野にいかに反映されているかを、伝記的背景を含めて考察した。これら両作品については、カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館内のマーク・トウェイン・ペイパーズに収蔵されている関連資料を分析し、現地の研究者から示唆を得た。 さらに、同じく『ハックルベリー・フィンの冒険』の続編であるトム・ソーヤーの陰謀」(1897年)へと研究対象を広げ、トウェインの故郷ハンニバルをモデルとした舞台セント・ピーターズバーグが、物語世界においていかに機能し、トウェインの人種観をあぶりだしているかを考察した。 いずれも、これまで軽視される傾向にあった『ハックルベリー・フィンの冒険』の続編群を再評価しつ、トウェインの人種観を時代背景との関わりを踏まえて考察した点で意義がある試みである。
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