研究課題
本研究では、癌で高頻度にみられる異常として知られる細胞周期制御機構の破綻に着目し、この異常の詳細の解明を目指す。特に細胞周期調節因子の多くがユビキチン化を介したプロテアソーム依存的なタンパク分解によって量的・質的コントロールを受け、細胞周期進行を厳密に制御することに着目し、その分解異常が癌化に寄与すると考え、研究を行っている。しかし、正常の制御機構を含め、未だ不明な点が多いのが現状であるため、本研究では癌での過剰発現が報告されている細胞周期調節因子のユビキチン分解制御機構の詳細解明を遂行し、その破綻による癌化への関与を探索する。本年度は、細胞周期調節因子の多くを基質とする複合体型ユビキチンリガーゼAPC/Cの新規基質タンパクとして見出した細胞分裂期進行に必須の因子であるBorealinを中心に解析を行った。Borealinは細胞分裂期進行に必須の役割を果たすCPC(Chrosome Passenger Complex)の構成因子として知られている。CPCはキナーゼであるAurora-B、細胞内局在に重要なSurvivin、本研究で着目するBorealin及びこれらのスキャホールドとして働くINCENPよりなっている。また、これらの因子はすべて癌での過剰発現が報告されており、癌化との関わりが示唆されている。培養細胞株を細胞分裂期に同調し、経時的にBorealinのタンパクレベルの発現動態を検討したところ、G1期に入ると分解されることを見出した。また、この分解はAPC/Cユビキチンリガーゼの重要な構成因子であるCdh1のノックダウンによって抑制されることからBorealinはAPC/Cユビキチンリガーゼにより分解されることが示唆された。さらには、In vivo ubiquitin assay法を確立し、Borealinが実際に細胞内でユビキチン化されることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度では、細胞周期調節因子のユビキチン分解異常がもたらす癌化機構の解明というテーマの中でも特に細胞分裂期進行に必須の因子であり、癌化との関わりが示唆されているBorealinのユビキチン分解機構の解明に焦点を絞り、詳細な検討を精力的に遂行した。結果、BorealinがAPC/Cユビキチンリガーゼにより分解されること、またその時期がG1期であることを見出した。さらには、Borealinが自身が構成する複合体の安定性を保つ因子である可能性を新たに見出し、癌で生じている複合体の過剰発現を説明しうる知見を得た。次年度以降、Borealinを中心とした癌化機構の解明に至ることを期待したい。当初の研究計画を順調に遂行していると評価できる。
次年度以降は、Borealin中の認識配列の同定を進めるとともに、その配列を変異させた非分解型変異体を用い、CPCの安定性や発癌に与える影響を様々な実験系を用いて検討する計画である。また、CPCの他の構成因子も同様にAPC/Cユビキチンリガーゼにより制御される可能性があると考えられるため、それらの解析も併せて行う予定である。
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American journal of pathology
巻: 185(1) ページ: 151-161
10.1016/j.ajpath.2014.09.006