研究課題/領域番号 |
14J08924
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
髙岡 旭 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | アルゴリズム / グラフ理論 / 計算量 / 情報基礎 / 離散数学 |
研究実績の概要 |
直交半直線交差グラフは耐故障ナノ回路設計に関連して定義されたグラフの族であり,効率的なナノ回路設計のためにこのグラフの構造に関する基礎理論が必要とされている.今年度は,直交半直線交差グラフの特徴付けとその応用に関して研究し,その成果を国内及び国際会議で発表すると共に,論文を発表又は論文誌に投稿した.以下に,研究成果を内容ごとに分けて記す. 1.直交半直線交差木の特徴付け:直交半直線交差木とは,閉路を含まない直交半直線交差グラフである.直交半直線交差木の特徴付けを示すと共に,直交半直線交差木の認識問題が線形時間で解けることを明らかにした. 2.単位格子交差グラフの認識問題のNP完全性:単位格子交差グラフの族は直交半直線交差グラフの族の上位集合である.単位格子交差グラフの認識問題がNP完全であることを明らかにした. 3.直交半直線交差グラフのOBDD表現とそのサイズの評価:OBDDとはブール関数を効率的に表現するデータ構造の1つである.グラフのOBDD表現とは,グラフをブール関数で表現しそのブール関数をOBDDで表現するものであり,巨大なグラフを効率的に扱う方法として期待されている.直交半直線交差グラフのOBDD表現を示し,そのサイズを明らかにした. 4.支配点集合問題と誘導マッチング問題の時間計算量:支配点集合問題と誘導マッチング問題は,グラフ上で定義される組合せ問題である.直交半直線交差グラフの族の部分集合の中に,2方向直交半直線交差グラフの族と3方向直交半直線交差グラフの族がある.それらのグラフの構造に関する定理を示すと共に,その定理を用いて支配点集合問題と誘導マッチング問題がそれらのグラフに対して多項式時間で解けることを明らかにした.その後,この結果を改善し2方向直交半直線交差グラフに対する支配点集合問題を解く動的計画法を用いたアルゴリズムを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究計画は3方向直交半直線交差グラフの構造に関する理論の構築と,これまでに得られた研究成果の発表だった. このうち研究成果の発表はすべて完了した.発表をする予定であった成果とは,(1)直交半直線交差グラフのOBDD表現とそのサイズの評価,(2)単位格子交差グラフの認識問題のNP完全性と単位格子交差グラフに対する様々な組合せ問題のNP完全性,(3)2方向直交半直線交差グラフに対する独立点集合問題と直交半直線交差グラフに対する誘導マッチング問題を解く多項式時間アルゴリズム,(4)直交半直線交差グラフの木と3方向直交半直線交差グラフの木に対する特徴付けである.4つとも国内研究会及び国際会議で発表しており,また既に(1)と(3)は論文誌に発表され,残りの(2)と(4)は査読中である. 3方向直交半直線交差グラフの構造に関する理論の構築も順調に進んでいる.直交半直線交差グラフの木と3方向直交半直線交差グラフの木に対する特徴付けを改良した他,グラフが3方向直交半直線交差グラフであるための必要条件を複数示した.それらは上述の論文に含まれている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度も昨年度と同じく直交半直線交差グラフと3方向直交半直線交差グラフの構造に関する基礎理論の構築を行う. グラフの構造に関する理論の中でもっとも基本的なものが,グラフの特徴付けである.グラフの特徴付けとは,ある1つのグラフがそのグラフの族に属しているための必要十分条件である.あるグラフの族の認識問題とは,与えられたグラフがそのグラフの族に属しているかを判定する問題である.グラフの認識問題の計算量もグラフの構造の複雑さをよく表現していると考えられている.本年度も,直交半直線交差グラフと3方向直交半直線交差グラフに対する特徴付けを明らかにしていくと共に,これらのグラフの認識問題の計算量を考察する. グラフの特徴付けに関しては,直交半直線交差グラフと3方向直交半直線交差グラフの禁止部分グラフを明らかにしていきたい.すでに,木に対しては完全な禁止部分グラフのリストが存在する.また,一般の直交半直線交差グラフと3方向直交半直線交差グラフに対してもいくつかの禁止部分グラフが知られている.これらの結果を拡張して,一般のグラフに対しても完全な禁止部分グラフのリストを明らかにしたい. 一方,グラフの認識問題に関しては,直交半直線交差グラフの半直線表現の部分的な情報がグラフそのものと共に与えられたとき,直交半直線交差グラフを認識する問題の計算量を明らかにすることからはじめる.この問題からただちにグラフの認識問題の計算量を明らかにすることは難しいが,認識問題の複雑さがどこにあるのかを把握することを可能にすると思われる. その他,直交半直線交差グラフの構造に関する理論を用いて,他のグラフの族との包含関係や同値関係を調べたり,工学的に重要な組合せ問題の直交半直線交差グラフに対する計算量を明かにしていきたい.
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