研究課題/領域番号 |
14J08936
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
元村 一基 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 植物の高温ストレス / mRNA分解 / RNA顆粒 / 細胞生物学 |
研究実績の概要 |
本研究は、環境ストレス応答におけるRNA分解タンパク質DCP1とDCP2の働きを明らかにすることが目的である。 まず、DCP2とDCP1の細胞内局在観察から行った。その結果DCP2の一部はDCP1と共局在するものの、多くは細胞質中に拡散していることが明らかとなった。その植物に高温ストレス処理を行い、計時観察を行った。その結果、高温処理下でDCP1とDCP2が多く存在する顆粒が形成された。このDCP1とDCP2が共局在するDCP1/2 bodyが高温時に形成されるとこの結果をまとめ、学術論文としてPlant Cell Physiology誌に研究成果を発表した。 次に非リン酸化型DCP1のmimicであるDCP1-SA植物とDCP2-GFP植物を交配し、その植物に高温ストレスをかけた。その結果、DCP1-SA植物では高温時のDCP2の顆粒形成能が弱まることが確認できた。そこでDCP1SA植物に高温処理をしてトランスクリプトーム解析を行った。解析の結果、DCP1リン酸化は高温時に発現変動するRNAのうち、一部の減少に重要であることが示唆された。これらの結果をまとめ、日本植物生理学会で研究成果を発表した。 以上の実験結果から、植物が高温応答時にDCP2の局在を変化させることで、細胞内RNA分布を変化させることが示唆された。また、リン酸化がこの迅速な局在変化を可能にしていることも示唆された。本研究により高温応答におけるmRNA分解機構とその意義の一端を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず本研究ではRNA分解酵素の二つのサブユニットDCP1とDCP2を共に可視化した植物を構築した。その植物を用いることで、これまでの定説を覆し、DCP1とDCP2の共局在は平温時には見られず、高温ストレス下においてDCP1/2 bodyが形成されることを明らかにすることができた。 また、DCP1やDCP2のノックアウト変異体は致死となってしまいストレス実験に用いることができない。そこで私はDCP1のリン酸化に着目し、リン酸化を受けない変異体を用いることで、高温時のDCP1/2 body形成が異常となる植物の作出に成功した。DCP1/2bodyの集合が異常となる植物材料を作出できたことは、今後の解析に大いに役立つと考えられる。 更に自主的な共同研究から次世代シークエンサー解析を成功させ、上記の植物を用い高温処理の前後のプロファイリングの差から、DCP2の集合を介したRNA制御メカニズムがあることを強く示唆するデータをえることに成功した。細胞学的な観察とゲノムワイドな解析を同時に用いて、より植物細胞内で起きている現象の深い理解をすることができた。 また、以上の主要な結果だけにかぎらず、RNA分解系の不具合によって植物の高温応答能力が低下するという生理的な解析も相まって,RNA分解系の寄与が生存戦略を担うことが明確になってきた。当該分野で非常に大きな貢献をしていると考える。このことから、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で得られた実験結果から、植物の高温応答におけるDCP1とDCP2の働きを考察し、仮説を立てた。植物が高温状態を感知するとDCP1のリン酸化が起き、DCP1顆粒へのDCP2の集合が促進される(DCP1/2 bodyの形成)。その後DCP1/2 bodyに不要なmRNAが集められることで積極的な分解が可能となる。一方高温応答性の新規転写mRNAはDCP1/2 bodyに集められず、分解されない、というものである。 このようにmRNA分解を介した高温応答メカニズムが示唆された一方で、一部のRNAだけが影響を受けた理由など不明な点はまだ残っている。更なる解析をすることで植物の環境応答機構の理解が深まり、様々な応用に結びつくことが期待できる。また、本研究のために作出した形質転換体などを用いて研究室内で様々な関連分野の実験が行われており、更なる広がりが期待できる。 また、高温処理前後でのトランスクリプトーム解析に次世代シークエンサーを用いることで、元々予期していなかった事象も明らかとなってきた。植物に高温処理を行い、その後高温状態を解除して通常温度に植物を戻すと、大部分のRNAは高温処理前の量に戻ろうとする一方、一部のRNAだけは逆相関に変動しないことが分かった。このことから、植物は高温に晒されたことを”記憶”し、更に環境に適応する能力を保持することが示唆された。 以上のように、高温時のDCP1とDCP2の詳細な挙動、DCP1SAを用いたトランスクリプトーム解析、この2点から、本研究の目的である高温応答におけるDCP1とDCP2の集合の役割が見えてきた。また、それだけに限らず、本研究結果をベースにした新たな研究が生まれることも期待できる。
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