研究課題/領域番号 |
14J08952
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
前野 利衣 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ハルハ=モンゴル / チベット仏教 / 転生僧 / ボルジギン氏族 / 右翼 / 政権構造 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、17-18世紀のハルハ=モンゴルの権力構造を、政治・軍事・宗教等の諸側面から明らかにしようとするものである。今年度は、ハルハで政治的に重要な役割を果たしたチベット仏教僧を取り上げ、聖俗両界を視野に入れて研究を進めた。 17世紀はユーラシア東方にチベット仏教が急速に広まる時代であり、ハルハにも転生僧(転生を繰り返して法統が続く高僧)が数多く誕生した。その最も有名な人物は左翼(東方集団)のチンギス=カン直系の子孫(ボルジギン氏族)であるジェブツンダンバ一世であるが、実は右翼(西方集団)でも同氏族出身の転生僧が多数活躍し、政権運営に重要な役割を果たしていたことを、私はこれまでの研究で明らかにしてきた。本年度は、こうした転生僧の政治的役割をさらに検討し、次のような成果を得た。 従来、ハルハのチベット仏教界において左翼の転生僧が主導的立場にあったと考えられてきたが、実際にはダライラマの属するゲルク派は右翼に先に浸透し、右翼にこそ格の高いゲルク派の仏教界が形成された。特に右翼のホンタイジ家においては、16世紀からハーンと高僧とが提携関係を結んでおり、その後三代かけて世俗支配者と高僧とが血縁的に近づいていった結果、17世紀にボルジギン氏族から転生僧を輩出するに至った。17世紀後半のハルハ全体に見られたボルジギン転生僧は、左翼ではなく右翼で先に誕生していたのである。この研究により、左翼の一例のみ知られていた聖俗連携の権力構造が、ハルハ全体に共通するものであり、ハルハの政教関係の力点は右翼にあったことが判明した。次年度にこの成果を国際学会で報告する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はウランバートルでの史料調査を予定していたが、文書館の臨時閉鎖のため、調査を行なうことができなかった。しかし、刊行史料を網羅的に分析することにより望む研究成果を挙げることができたため、研究はおおむね順調である。モンゴル国での調査は次年度に繰り越すことにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はチベット仏教僧に着目して研究を行なったが、本課題を完遂するためには、さらに政治・軍事的視点からの研究が必要である。そこで最終年度である次年度は、ハルハ・清関係において重要なキーワードとされる、「ザサグ」号を取り上げる予定である。また、これまでの2年間の研究成果を公開することにも力を入れるつもりである。
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