研究課題/領域番号 |
14J09015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 成朗 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 表情フィードバック / 国際研究者交流(Massachusetts) |
研究実績の概要 |
これまで行ってきた疑似的な表情のフィードバックによる感情喚起手法の研究成果を論文誌としてまとめた.東京大学の広報誌でも研究の取り組みが紹介されるだけでなく,海外のマーケティング系の展示会に招待されてシステムの展示を行った.来場者から海外の研究展示スペースでの展示依頼が来たり,海外の大学から表情変形ソフトウェアの実験利用の依頼が来るなど,国内外,学術・産業を問わず研究成果を広めることができた. 表情以外にも,悲しみや,寂しさ,幸福といった感情状態を示す「涙」に注目し,疑似的な涙を自身の涙であるかのように錯覚させることで感情を人工的に喚起する手法の検討を行った.涙提示デバイスの開発とユーザテストにより,疑似的な身体反応提示装置としての有効性を確かめた. また,本研究は人間の様々な主観的な情報をバーチャルに作り出すことを対象としており,そのためには人間の生理状態の測定や行動推定結果に基づいてフィードバックの強度を変更する必要がある.さらに,生理状態の測定や行動推定は研究において構築するシステムの評価にも有用である.そこで,本年度は生理状態や行動推定のためのセンシング技術を研究・開発するために,先進的なセンシング技術で注目を集めているMassachusetts Institute of Technology, Media LabのCamera Culture Groupに約3ヶ月間滞在した.そこでの研究成果は,フルペーパー論文としてまとめ,2015年4月に開催されるHuman-Computer Interaction系の最高峰の国際会議であるCHIに採択されている.今後,こうして開発したセンサを用いて,人間の生理・健康・行動の推定を題材として,推定された情報に基づいた適切なフィードバック手法の設計や他の入出力装置とのインタラクション設計を行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,今まで行ってきた表情変形のフィードバックによる感情喚起手法に関して,論文誌としてその成果が採録されるだけでなく,展示やデモなど研究の成果を一般にも分かりやすく正確に伝える活動も行った. さらに,研究している身体反応のフィードバックによる感情喚起手法を,メンタルケアや生活習慣改善に活かそうと複数の企業と共同研究を進めている. また,身体反応のフィードバックによる感情喚起手法の体系化のために,新たな疑似身体反応提示手法の制作にも取り組んだ. 他にも,生理状態の測定や行動推定のためにセンサ技術の研究・開発を行っただけでなく,その成果をHuman-Computer Interaction分野のトップカンファレンスに投稿して採択された.
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今後の研究の推進方策 |
これまで開発を進めてきた表情変形フィードバックによる感情喚起システムについて,展示や実験を通して,更に感情喚起手法の体系化のために必要なデータ(フィードバックの強度・ディレイ,実際の表情変化など生体情報データ)を集めていく.また,表情や心拍といった身体反応をフィードバックすることによる感情喚起や行動誘発の社会応用として,複数の企業との共同研究が始まった.一般的な日常生活空間において長期的にフィードバックを行った際に,生活習慣や感情にどのような影響を与えることができるか検討しており,表情認識センサを用いて定量的な評価を進めていく. 他にも,日本基礎心理学会の特別委員会「心の実験パッケージ開発委員会」の委員として,小中学校向けの心理科学教材の作成を行っている.そして,「心理学」と「脳科学」をつなぐ体験型・科学教材や教授法(メソッド)を開発すると同時に,開発した教材を用いた「ワークショップ」などを開催している.そうした活動の中,これまで開発してきた表情変形ソフトウェアを応用して別人の顔へ変形するソフトについて開発を進めており,これを利用して人の顔記憶の曖昧さを教える新たな心理科学教材の作成も行っている.ワークショップを使った実験を通して別人顔への変形パラメータを導出し,相対する人の顔が違って見えることでコミュニケーションがどのように変化するか調査し,創造性や食事の美味しさ,緊張感などの多様な心的リアリティを喚起する手法の開発を目指している.
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