研究課題/領域番号 |
14J09015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 成朗 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 情動インタフェース / 情動伝染 / 情動2要因理論 / 擬似身体反応 |
研究実績の概要 |
昨年度は,悲しみの感情状態と関わりのある身体反応である「涙」に注目し,疑似的な涙を自身の涙であるかのように錯覚させることで感情を人工的に喚起する手法の検討を行った.そのため,ユーザの目元に水滴を落とす眼鏡型のウェアラブル装置を作成した.そして,涙が顔表面を流れる触覚的な感覚によって悲しみの感情を喚起することが可能か調査した.被験者実験により,擬似的に涙を流したような感覚を再現することで,仮説通りに,悲しみの感情を喚起できることが確かめられた.さらに,涙が流れることを観測した周囲の人物までも悲しみの感情を抱くことがわかった.他者へと情動が伝播していく「情動伝染」を引き起こす可能性が示唆され,複数人の感情体験を同時に操作できるインタフェース技術の開発へと繋がる. 眼鏡型ウェアラブル装置の作成や,感情喚起の効果については論文誌としてまとめ,バーチャルリアリティ学会への投稿を行った(査読結果待ち).また,情動伝染の可能性についてまとめたものは,Natureの姉妹誌であるScientific Reportsへの投稿に向けて,現在執筆を行っているところである. また,これまで行ってきた擬似的な表情のフィードバックによる感情喚起手法の研究成果にもとづき,パーキンソン病やうつ病に対する治療法や検査法の可能性を慶應義塾大学医学部神経内科や東京大学の精神科の先生方と共同で調査を進めている. 他にも,入力した顔写真の顔部位の大きさや位置を変形することで,元の顔とは違う他人の顔へと変形するソフトウェアの作成を行い,この教材を利用したワークショップを国内外で行った.そして,ワークショップから得られたデータから,自分の顔の認知と他人の顔の認知を隔てるパラメータを明らかにした. 以上のように,身体反応を利用した感情喚起手法についてこれまで通り研究を進めており,来年度の体系化に向けて成果をまとめつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度は,新たな擬似身体反応提示装置の開発と実験を行うと同時に,過去に行った研究結果の考察や再検証を進めた.新たに開発した装置を用いた実験では,水が頬を流れる皮膚感覚によって被験者の感情を操作できることを明らかにした.この結果については,VR学会論文誌に投稿している.さらに,擬似的な涙によって情動伝染を引き起こせることも確認し,この結果については国際ジャーナルへの投稿を進めている 研究以外では、これまで行ってきた研究の成果について,展示や講演,ワークショップを通して一般にも分かりやすく伝える活動も行い,工学分野だけにとどまらず,心理学,デザイン,アートと分野横断的に研究成果を広めてきた.こうした活動を通して,研究している身体反応のフィードバックによる感情喚起手法を,メンタルケアや生活習慣改善に活かそうと企業や医療関係者との共同研究も始まった.
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今後の研究の推進方策 |
擬似的な表情のフィードバックによる感情喚起手法の研究成果に関しては,パーキンソン病やうつ病に対する治療法や検査法の可能性を慶應義塾大学医学部神経内科や東京大学の精神科の先生方と共同で調査を進めている.実際の臨床の場での使用に向けて,より自然な表情変形を実現するため,人の顔の動きをより正確に再現した顔変形パラメータの導出を行うとともに,表情変形フィードバックの長期的な効果や,多人数にフィードバックした場合の効果などを被験者実験により明らかにしていく. 他にも,慶応義塾大学の心理学研究室と共同で,涙の効果によって記憶に付随する感情状態の操作が可能か研究を進めている.今後は,これらをさらに推し進め,涙の感情増幅や覚醒の効果を利用して,悲しい映像や感動する映像など,すでに感情価が与えられた刺激に対して,涙を付加することでその感情が増幅するか実験を行う予定である. また,昨年度はこれまで開発してきた表情変形手法を改良した顔変形手法を用いて,眉毛・目・鼻・口・輪郭の形状や位置を自然に変形することができるソフトウェアを作成し,自分の顔の認知と他人の顔の認知を隔てるパラメータを明らかにした.こうして明らかになったパラメータを顔変形手法に応用することで,他者の顔が違って見せることでコミュニケーションがどのように変化するか,また顔を本人と思える範囲内で魅力的変形することで顔記憶が変化するかなど,多様な心的リアリティを喚起する手法の開発を目指している.
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