研究課題
本研究では細胞の膜タンパク質形成メカニズムの構造基盤解明を目的として、細菌の外膜タンパク質膜組み込み装置であるBam複合体の構造研究を推進している。これまでにBam複合体の中核因子である膜タンパク質BamAの結晶化に成功したが、構造解析可能なX線回折データセットの取得には至っていない。また前年度に引き続き、病原菌の多剤排出輸送体MATEトランスポーターの構造・ダイナミクス解析も推進した。これまでにVibrio cholerae由来MATEの2つのコンフォメーションの結晶構造を2.2 A, 2.7 Aの高分解能で決定した。MATEは12本の膜貫通へリックス(TM)からなる膜タンパク質で、2つのコンフォメーションの比較から、原核生物由来MATEに高度に保存されたTM1に位置するアスパラギン酸残基周辺の水素結合ネットワークが、pH依存的に再編成されることが明らかとなった。更にこの水素結合ネットワークの再編成によって、TM1の折れ曲がりが誘起され、続いてタンパク質内部に結合した基質が排出されることが示唆された。本年度は更に、MATEの基質輸送サイクルにおけるダイナミクスを明らかにすることを目指した。水溶液中で脂質二重膜の環境を再現できる”ナノディスク”にMATEを再構成することに成功し、生理的な環境を反映した条件で電子スピン共鳴解析を行った。この解析の結果より、2つのコンフォメーションから示唆されたpH依存的なTM1の動きが支持され、これまでの知見と合わせて、原核生物由来MATEの普遍的な基質排出メカニズムが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
Bam複合体の構造決定には至っていないが、多剤排出輸送体MATEの構造を高分解能で決定後、ナノディスク再構成に成功し、更に電子スピン共鳴によるダイナミクス解析を推進することができ、原核生物由来MATEの分子メカニズム解明につながる成果が得られたため、当初予期していた以上の研究の進展があったと判断した。
2016年1月から3月にかけてBam複合体の結晶構造が相次いで報告され、外膜タンパク質形成メカニズムの構造基盤の一端が明らかとなった。今後の課題は、Bam複合体が基質である前駆体タンパク質とどのように相互作用し、どのような構造変化によって膜組み込みを達成するかを解明することとなる。そのために、基質との複合体構造解析や膜組み込みの過程におけるダイナミクス解析を今後の推進方策とする。多剤排出輸送体MATEに関しては、得られた結晶構造とダイナミクス解析の結果を論文にまとめて報告する。
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Cell Reports
巻: 13 ページ: 1561-1568
10.1016/j.celrep.2015.10.025