研究課題/領域番号 |
14J09070
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 宗史 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 回路技術 / プロセッサ・アーキテクチャ / クロッキング方式 / 耐ばらつき対策手法 / タイミング・フォールト検出 / 二相ラッチ / タイム・ボローイング |
研究実績の概要 |
半導体プロセスの微細化に伴って,素子のランダムなばらつきの問題が顕在化しつつある.この問題により従来のLSI設計手法であるワースト・ケース設計の見積もりが悲観的になり,微細化を進めても従前のような性能向上が期待できなくなる. このワースト・ケース設計からの脱却を図る手法の一つに,タイミング・フォールト(TimingFault:TF)と呼ばれる回路遅延の動的な変動によって生じる過渡故障を検出/回復する技術が提案されている.この技術は「回路レベルの検出技術」と「アーキテクチャ・レベルの回復技術」の二つからなる.しかし,既存の検出技術は,クロッキング方式のタイミング制約の関係で実際の速度向上は見込めず,また,既存の回復技術では,チップ内における回復箇所の考慮が不十分であるため,ごく簡単なプロセッサにしか適用できていない.
申請者は,これらの問題を解決し,既存のTF検出/回復技術では成し得なかった,実効遅延の平均に近いサイクル・タイムで動作するout-of-orderプロセッサの実現を目指している.検出技術においては,二相ラッチ方式と呼ばれるクロッキング方式に検出技術を適用することで,実際の遅延の平均に近いサイクル・タイムでの動作を実現する.回復技術においては,FIFOやキューのポインタといった制御系に生じるTFに対処することで,複雑なout-of-orderプロセッサにも適用可能な技術を提案している. 当該年度は主に,検出技術に関する2つの研究課題に取り組んでいた.そのままではTF検出技術を適用することができなかった「ダイナミック・ロジックへの適用方式の検討」,そして,汎用のプロセッサに我々の提案方式を適用するための,「適用自動化ツールの作成」である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
検出/回復技術のうち,回復技術においては,理論的な部分での正確性を得ている.検出技術における課題は先に述べたように,「ダイナミック・ロジックへの適用」と「適用自動化ツールの作成」の2つに大別される.「ダイナミック・ロジックへの適用」に際しては,おおむね順調に進んでいるが,「適用自動化ツールの作成」がやや遅れているという評価である.以下,各項目について,説明を行う.
ダイナミック・ロジックへの適用 提案する検出技術はチップ内のSRAMなどに用いられるダイナミック・ロジックと呼ばれる回路方式への適用は考慮されていなかった.当該年度は,ダイナミック・ロジック特有の状況を考慮した検出方式を考案し,シミュレーションを用いて,提案方式によって,ダイナミック・ロジックへTF検出技術を適用し,それが実際に動作することを確認した.得られた結果は好感触であり,今後の課題解決に向けて弾みとなっている.
適用自動化ツールの作成 パスの遅延を素子数で見積もり,遅延の挿入や二重化といった提案技術の適用を自動で行うツールを開発中である.当該年度は,ラッチ挿入アルゴリズムの検討を行い,それに伴うツールの実装・改良を行っていた.当該年度においては,グラフのカット問題に帰結することで,ラッチ挿入アルゴリズムを比較的容易に実装し,汎用のプロセッサに適用することにより,回路面積の評価や適用時の最適解を求めるところまで研究を進める予定であった.しかし,実際には様々な制約条件があり,ラッチの挿入アルゴリズムひとつをとっても,適用時の最適解を求めるのに困難を極めた.今後,詳細に検討し,解決する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
ダイナミック・ロジックへの適用に関しては,昨年度得られた成果を基に,誤検出や検出漏れの生じない,回路の動作環境の設定,ステージ間の累積遅延の程度を考慮したタイミング制約の検討などを行っていく予定である.
適用自動化ツールの作成に関しては,計算時間の最適化など,実装時に浮き彫りになった問題を解決し,CADツールのベンチマークなど,回路規模の大きい回路をツールに読み込ませ,提案方式を適用することで,適用時の素子数の増加量,適切なラッチの挿入位置などの評価を行う予定である.
上記2つの課題が解決した後には,Out-of-Orderのスーパースカラ・プロセッサへの提案手法の適用・実装を予定している.ハードウェア・コストや実効速度についての評価を行い,ARM などの商用プロセッサ等と比較しながら,提案手法の有効性を実証することを考えている.
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