研究課題/領域番号 |
14J09079
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
本多 真隆 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 家族社会学 / 歴史社会学 / 国際比較研究 / 親密性 / 家制度 / 近代家族 / 擬制的親族関係 |
研究実績の概要 |
本研究は、1近代日本の言説資料の収集と分析、2家族研究学説史の分析、3高齢者グループリビング居住者を対象としたインタビュー調査を中心に実施されている。以下、各調査の進行状況と成果の研究発表の経過について記す。 1本調査では、近代日本における家族の情緒的関係についての理念、規範を明らかにするために、明治~昭和前期の言説資料にあらわれる情緒概念を抽出した。調査の概要は以下である。(1)国会図書館「近代デジタルライブラリー」より、近代日本の家族規範がよみとれる、礼儀作法書、結婚読本などを抽出。(2)大宅壮一文庫所蔵の雑誌記事から、夫婦関係、親子関係の問題にかかわる記事を収集。(3)老川寛編『家族研究論文資料集成:明治大正昭和前期編』(クレス出版)から、家族情緒について記されている資料を抽出。(4)教育勅語や国体論など、近代日本における官制の道徳書から家族規範に関する言説を抽出。 2本調査では、家族研究学説史にあらわれる情緒概念について検討し、理論的な整理を試みた。調査の概要は以下である。日本家族社会学の泰斗である戸田貞三の著作にみられる家族の「感情的融合」概念に着目し、戸田の著作における「感情的融合」概念を理論的に検討した。そして、戸田が提示した「感情的融合」概念を、後続の家族研究者がどのように受容し、理論的な整理を試みたかを学説史的に検討した。 3本調査では、上記の歴史研究で検討した近代日本の家族規範が、現在どのような形をとり、人々の考え方に影響しているかを解明することを目的としている。奈良県、兵庫県、山形県の各3施設に共同研究者とともにフィールドワークを行い。居住者にインタビュー調査をした。 以上のような申請者研究は、日本における家族情緒の歴史的な文脈と、「日本型近代家族」の独自の発達モデルを体系化した点に意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成26年度は研究実施計画の予定通遂行しながらも、研究の発展上に新たなテーマを見出し、その探求もおこなった。主に以下二点である。 ひとつは、「民主主義」をめぐる家族社会学学説史の研究である。敗戦直後においては民法改正にともない、「家族の民主化」が中心的なテーマとなったが、異なる理論的立場をとった研究者も多い。研究においては、社会学者の有賀喜左衛門の学説を対象に、彼の「家」と「民主主義」に関する議論を検討した。 もうひとつは、近代日本の「家族」言説を分析する理論装置の検討である。戦前期においては、「家族制度」、「家」、「家庭」など、しばしば重なる対象を指しながらも、異なるニュアンスをもつ言葉が多い。こうした語彙の錯綜を分析するための理論研究をおこなっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、計画書に従った調査をおこなう。その上で、発展的なテーマの発見と、資料探索の範囲を広げる。 近年の社会理論において「親密な関係」は、性愛や血縁のみを基盤とした従来の「(近代)家族」にかわる関係性を示す理論として着目されている、この背景には、現代の社会政策において、子どもや高齢者への福祉やケアなどが、「家族」の親密関係の枠内で中心的におこなわれると想定されていることに対しての問題意識がある。 これまでの研究は、日本の家族情緒の歴史的な文脈を提示し、「親密な関係」をめぐる議論の基礎的な視座を提示した点で意義がある。しかし、家族のなかで営まれる親密性と他の機能の結びつきについての考察と、検討した歴史的な視座を戦後社会にまで広げる必要があるという点で課題を残しており、改善を検討している。
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