本年度は、今日のメタ形而上学(分析形而上学の方法論を探究する分野)の中で重要な方法論的道具立ての位置を占める、〈存在論的コミットメント〉の概念について、主に次の二つの主題にかかわる研究を行なった。(A) マイノング主義と呼ばれる形而上学的立場と存在論的コミットメント概念の関係、(B) 存在論的コミットメント概念の一般化として近年注目されている、〈実在への要請〉概念の内実の解明。 (A) について。存在論的コミットメント概念を標準的な仕方で特徴づける際には、「単なる意味論的道具立て」と呼べる種類の対象が用いられる。本研究では、この〈意味論的道具立て〉の対象がもつ性格が、現代形而上学において「非存在対象」という名で分類される種類の対象と重要な点で類似しているということを指摘した。非存在対象をめぐる考察は、現在「マイノング主義」の名で知られる立場において盛んであるが、この立場はこんにちあくまで非主流派であり、特に存在論的コミットメント概念の特徴づけという論点と結びつけた考察は、これまでなかったと考えられる。以上で得られた新しい知見は、2016年10月の国際WS Tokyo Workshop on Meinongeanism において口頭発表された。 (B) について。近年のメタ形而上学では存在論的コミットメント概念を一般化したものとして、「実在への要請」と呼ばれる概念が注目されている。本研究では、この〈実在への要請〉概念の内実について基礎的なレベルでの考察を行ない、特に次の知見の正当性を示す作業を行なった。すなわち、ある文に帰属される〈実在への要請〉は、その文の(メタレベルから与えられる)真理条件に基づいて特定され、その内容は文の真理条件が述べていることそのものだと考えるべきだ、ということである。この成果は、2017年3月の日本大学文理学部哲学WS にて口頭発表された。
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