研究課題
銅酸化物高温超伝導体は、母物質である反強磁性絶縁体にホールまたは電子をドープすることで高温超伝導が発現すると考えられてきた。しかし近年、電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体の薄膜試料ではCe置換による電子ドープ無しに超伝導が発現することが報告され、ノンドープ超伝導と呼ばれて注目されている。試料合成後に行う還元アニールの手法の改良によって超伝導を阻害する不純物酸素がより効果的に取り除かれ、Ce置換無しに超伝導が発現したと考えられている。このノンドープ超伝導体の電子構造を明らかにするため、今年度はノンドープ超伝導薄膜の角度分解光電子分光(ARPES)測定を行った。真空紫外光を用いた高分解能ARPES測定は非常に表面敏感であるため、表面を一度大気に曝してしまった試料の測定を行うことができない。そこで、2015年度に我々が確立した手法(Y. Krockenberger, M. Horio et al., Appl. Phys. Express 8, 053101 (2015).)でノンドープ超伝導薄膜を作成した後、非晶質のSeを蒸着して表面を保護した状態で放射光施設へ輸送し、測定用の真空槽への導入後に加熱によってSeを昇華させることで清浄な試料表面を用意した。ARPESで観測したフェルミ面の面積からキャリア量を見積もったところ、Ce置換していないにも関わらず、多量の電子がドープされていることがわかった。アニールによって酸素欠損が生じたために電子がドープされたと考えられる。本研究は、電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体のキャリア量はCe量だけでは決まらず、Ce置換していないノンドープ超伝導体にも多量の電子が含まれているということを示した点で、銅酸化物高温超伝導体の相図確立に大きく貢献するものである。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)