研究課題/領域番号 |
14J09202
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
青木 奈央 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | エクソソーム / 細胞外小胞 / がん / 転移 / 情報伝達 |
研究実績の概要 |
1. エクソソームの制御によるがんの転移の抑制 がんの分泌するエクソソームは転移を促進する作用があることから、がん由来エクソソームを抑制することで転移を抑制するという、治療応用も見据えた研究を行った。乳がんのモデルマウスを作成し、ヒト由来エクソソームの表面に局在するタンパク質を認識する抗体を3日おきに尾静脈注射にて3回投与した。その後、原発腫瘍のサイズの変化や、転移の有無を継続的に観察した。すると、抗体を投与した群では対照群と比較して、原発巣の腫瘍のサイズは違いが見られなかったが、有意に肺への転移が抑制されていた。この結果は、投与した抗体が、がん細胞そのものに作用したのではなく、エクソソームの機能を阻害することでがんの転移を抑制したことを示唆している。エクソソームの阻害によるがんの転移の抑制という、全く新規ながん治療の可能性を示している。 2. 抗体によるエクソソームを介した転移抑制機構の解明 次に、抗体が実際にエクソソームを阻害していることの確認、及び転移抑制の作用機序の解明を目指し研究を行った。抗体ががん細胞由来のエクソソームに結合することを確認し、抗体のエクソソーム機能阻害をin vitroで示し、in vivoでも抗体によるエクソソームの取り込み阻害を示唆する結果を得た。 3. がん細胞由来エクソソームの体内挙動検出系の構築 エクソソームは非常に小さいため検出が困難である。今回、エクソソームにC.elegans由来のcel-miR-54を取り込ませて目印とし、マウス体内のエクソソームを検出、測定する系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、「エクソソーム」という細胞外小胞を介したがんの薬剤耐性の伝播、という研究テーマを元に、 がん細胞の薬剤耐性の獲得に留まらず、転移などエクソソームが関わるがんの悪性化現象を広く対象に研究を行った。がん細胞由来のエクソソームは転移を促進する作用があるという報告があるので、まず、がん由来エクソソームを阻害することでがんの転移を抑制するという治療応用を見据えた実験を行った。実際に、乳がんのモデルマウスにエクソソームを認識する抗体を投与することで、肺への転移を抑制することに成功した。原発腫瘍は影響を受けなかったことから、当初の狙い通りエクソソームを阻害することにより転移を抑制できたと考えている。さらに抗体の作用機序を調べ、組織への取込みを抑制することを示唆する結果を得ている。この成果は、エクソソームを阻害する新規ながん治療につながる。またその過程で、マウス体内でのエクソソームの局在を検出する系を構築した。体内挙動はエクソソームの生理的作用を解明する上で必須の情報であり、今後の研究に大いに役立つと期待できる。 さらに総説を執筆、受理された。エクソソームによる核酸の細胞間の受け渡しに関する総説で、英文誌Cellular and Molecular Life Science誌に掲載予定である。総説中の図は表紙へ採用された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、がん細胞由来のエクソソームが転移の促進に関与する作用機序を解明する。まず、今回開発したエクソソームの体内挙動の検出系で、肺など臓器へのエクソソームの取り込みを調べる。取り込まれた臓器に関して、エクソソームによる影響を、臓器切片の顕微鏡観察で表現型を明らかにし、また転写量解析で細胞内の影響を明らかにする。さらにエクソソーム中に含まれる作用因子を特定する。
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