がん細胞が分泌する直径100nmほどの細胞外小胞、エクソソームは、がんの転移を多方面から促進する。そこで本研究は、がん細胞の分泌するエクソソームという細胞外小胞の機能を阻害することで、がんの転移を抑制することを目的とした。 前年度までに、乳がん細胞由来のエクソソームに結合する抗CD9抗体、あるいは抗CD63抗体を乳がんのマウスモデルに投与することで、乳がんの肺転移の抑制に成功した。また、抗体による転移抑制機構として、抗体ががん細胞由来のエクソソームに結合することで、マクロファージへの取り込み促進が起こることを、生体外での実験結果から示唆した。そこで本年度は、抗体の投与による転移の抑制にマクロファージが関与することを、動物モデルを用いて実証した。 1.乳がんモデルマウスにおける血液中のエクソソーム量の測定:ヒト乳がん細胞株を同所移植した乳がんモデルマウスに、抗CD9抗体、あるいは抗CD63抗体を投与し、マウス血液中のがん細胞由来のエクソソームを定量した。結果、いずれの抗体も、マウス血液中のがん細胞由来エクソソームの量を低下させた。 2.抗体による体内のエクソソーム量減少におけるマクロファージの関与:マクロファージ量が正常なマウスと、クロドロン酸リポソームを投与して体内のマクロファージを枯渇させたマウスに、抗CD9抗体、抗CD63抗体と反応させた乳がん細胞由来のエクソソームを尾静脈投与し、臓器における残存量を調べた。結果、マクロファージ存在下では抗体により残存量が低下したが、マクロファージ枯渇条件下では抗体の効果が消失した。以上より生体内でのマクロファージによるエクソソーム除去促進が示された。 本実験により、エクソソームを治療標的とした新たながん治療の実現可能性を実験的に示すことができた。この治療モデルは、抗体を標的とする分子を変更することで様々な臓器のがんに応用可能である。
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