研究課題/領域番号 |
14J09207
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大西 賢治 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 利他性 / 社会性 / 霊長類 / 互恵性 / 評価型間接互恵性 / オキシトシン / オキシトシン受容体 / 遺伝的基盤 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、研究1として、ヒトを含む霊長類において、血縁関係にない個体間で利他行動の進化を可能にする互恵性がどのように成立しているのかを検討する。研究2として、霊長類の利他性に「遺伝」、「内分泌系」、「育ち・経験」、「社会関係・社会的能力」の要因がどのように影響しているのかを検討する。 研究1では、大阪市内の保育園において、ヒト幼児の行動観察、実験のデータを収集した。また、本年度は、取得したデータの詳細な分析、昨年度得られた結果の論文化を進めた。平成26年度中に、ヒトは、幼児期からかなり複雑なルールを理解した上で、評価型間接互恵性を利用していることが確認されている。平成27年度中に掲載には至らなかったため、平成28年度前半中に論文発表を目指す。 研究2では、昨年度、ニホンザルにおいてオキシトシン受容体遺伝子(OXTR)の多型が社会性・利他性の個体差に影響していることを明らかにした。本年度は、新たに分析したデータを加え、この内容の論文化を進めた。この内容は平成28年度前半中に論文発表を目指す。 また平成27年度には、オキシトシンホルモンが社会性に与える影響も検討した。本研究では、餌付け野生集団である勝山ニホンザル集団において、野生下での尿中オキシトシンの採取、測定方法を確立した。また、成体メスを対象に、測定した尿中オキシトシン濃度と毛づくろいネットワークにおける個体の社会性・利他性の関連を検討した。分析の結果、尿中オキシトシン濃度が高いほど、毛づくろいネットワークにおいて他個体を毛づくろいする量が多かった。毛づくろいを受ける量や毛づくろい相手数、直接互恵性と尿中オキシトシン濃度は関連していなかった。以上の結果から、オキシトシン濃度が高い個体は、他個体に対して社会交渉を行うモチベーションが高い可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)に所属する全129個体を対象とし、行動、DNA、内分泌系のデータを収集し、平成27年度の個体追跡観察は概ね予定通り収集できた。これらのデータ昨年度までのデータに加え、結果の論文化を目指したが、データ収集、分析・論文執筆に予定よりも時間がかかったため、論文の出版までは至らなかった。予定の分析をするに足る量のデータは確保できたため、平成28年度前半の間に「Genetic polymorphisms in oxytocin receptor gene (OXTR) affect sociality of Japanese macaques (Macaca fuscata).」として論文発表を目指す。また、本年度は、野生ニホンザル集団において、尿サンプルからオキシトシンホルモンの収集、分析する方法の確立を試みた。サンプルの収集から解析までは、当初見込んでいた期間で達成できた。これらのデータを用い、尿中オキシトシン濃度と毛づくろいネットワークにおける個体の社会性・利他性の関連について分析を行った結果、良好な結果が得られた。ただし、本分析のための尿サンプルの収集は予定よりも時間がかかったため、現在、データ収集を継続しながら、追加分析を行っている。 ヒト幼児については、大阪市内の保育園において、5-6歳齢クラスに所属する72名を対象に継続して行動観察と実験を行った。ヒト幼児の互恵性についてのデータは当初の目的を遂行するために必要なデータ量を確保することができた。現在、論文発表「The effects of understanding and use of reputation-based indirect reciprocity rules on peer relationships in 5- to 6-years olds.」を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、研究1について、ニホンザルでは直接互恵性以外の互恵性は成立していない可能性が示唆された。一方で、ヒト幼児では、直接互恵性、評価型間接互恵性の成立に加えて、幼児期から高度なルールの理解によって評価型間接互恵性が維持されている可能性が示唆された。平成27年度中に上記の結果を示すために必要なデータ収集を終えており、平成28年度の前半に得られた結果を論文化して発表する作業を進める。 研究2について、ヒト幼児においては、平成27年度に実施した予備分析から、利他性の発揮(利他行動の頻度、互恵性の成立度合い)には、心の理論(他者の心的表象を理解する能力)の獲得と共感性(他者の情動の理解)の両方が影響を与えることが分かってきた。これらの影響は社会性・利他性の多くの要素と関連していたため、平成28年度にはデータを加えて解析を進め、どのような経路で影響するのかを明らかにする。また、平成28年度は、大阪大学大学院人間科学研究科の比較発達心理学研究分野、提携保育園と共同で、内分泌系と社会行動の関連を調べるための募集プログラムを進める予定である。ニホンザルのデータについては、オキシトシン受容体遺伝子の一連の結果を論文化していく。また、オキシトシンホルモンの解析のための尿サンプルがもう少し必要だと判明したため、継続して尿サンプルを収集する。ホルモンデータが十分にそろった時点で遺伝子と内分泌系の交互作用、その他の社会的要因との交互作用の分析を完成させる。類人猿データは、平成28年度中のデータ収集開始を目指す。チンパンジーの研究については、マハレ山塊自然公園で研究を続けて来られた帝京科学大学の島田将喜准教授と共同でデータを分析する協議を行っている。
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