研究課題
1.膜融合因子SNAREの網羅的解析SNAREは輸送小胞と標的膜の膜融合を実行する因子であり、ゼニゴケSNARE分子を網羅的に解析した。ゼニゴケゲノムには34のSNARE遺伝子がコードされており、この構成数は既知の陸上植物と比較すると少ないものの共通のオーソログのセットを一通り有していること、独自の一次構造を有するSNARE分子を獲得したこと、組織や発生過程において転写産物レベルでパラログ分子を使い分けていること、局在解析から既存の分子ネットワークを他の経路に転用させることにより膜交通経路の多様化が起こったことが示された。これらの成果は査読有りの国際誌に発表を行った(Plant and Cell Physiology, 2016 Feb;57(2): 307-324)。SNARE分子の個々の機能については相同組換えおよびゲノム編集技術を用いた遺伝学的解析およびin vitroおよびin vivo相互作用について生化学的解析を進めており、独自の膜交通経路の制御機構について、より詳細な解析を展開している。2.ホスホイノシチドの細胞内分布と輸送中間体形成におけるダイナミクスホスホイノシチドは、さまざまなシグナル伝達経路に影響を与えること、オルガネラごとにリン酸化状態の異なるホスホイノシチドが分布していること、さらにオルガネラ内でドメインをもって分布することで、小胞などの輸送中間体形成に必要な足場を提供することなどが報告されており、膜交通機能に重要な役割を果たしていると考えられている。ゼニゴケ細胞内のホスホイノシチドの分布について、脂質結合ドメインと蛍光タンパク質の融合コンストラクトを作製、観察を行っており、脂質合成阻害剤添加実験等により、ホスホイノシチド合成・分布がクラスリン被覆小胞形成、ダイナミクスへ与える影響について詳細な解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
膜交通は1.輸送中間体の形成、2.輸送中間体の輸送、3.輸送中間体と標的膜の係留、4.輸送中間体と標的膜の融合の4つの連続したプロセスにより進行する。SNARE分子は膜交通の最終プロセスである膜同士の融合を実行する因子だが、SNARE分子の網羅的解析により、ゼニゴケ細胞内における既知の膜交通制御分子を用いた膜交通システムを明らかとすることができた(Plant and Cell Physiology, 2016 Feb;57(2): 307-324)。また、最初のプロセスである輸送中間体形成については、特にホスホイノシチドとクラスリン被覆小胞に注目し、クラスリン被覆小胞のダイナミクスを光学顕微鏡および電子顕微鏡で明らかとした。ホスホイノシチドの合成・分布とクラスリン被覆小胞の形成・ダイナミクスの関係については現在解析を進めている。
ライブイメージング技術を用いた観察結果からは、SNAREおよびホスホイノシチドといった既知の分子装置が輸送標的膜であると考えられる葉緑体外包膜上に存在を確認できなかったことから、今後は、単離エンドソームおよび単離葉緑体を用いた生化学的手法により、輸送分子装置および輸送積み荷を明らかにし、新規膜交通経路の獲得の生理的意義について明らかにすることを目標とする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)
Plant and Cell Physiology
巻: 57 ページ: 307-324
10.1093/pcp/pcv076