研究課題/領域番号 |
14J09257
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澁谷 亮輔 東京大学, 大学院 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 対流圏界面 / 重力波 / 南極大型大気レーダー / 高解像度数値モデル |
研究実績の概要 |
世界気象機関(WMO)による対流圏界面の定義によると、1つの温度プロファイル内に複数の圏界面が現れることがある。これを多重圏界面構造と呼ぶ。中緯度の多重圏界面構造の振る舞いや力学機構に関する先行研究は多いが、極域における多重圏界面構造についてはほとんど研究がなされていない。そこで、昭和基地に建設された南極初の大型大気レーダー(PANSYレーダー)とラジオゾンデをあわせて用い、2013年4月及び5月、昭和基地 (69.0°S, 39.6°E) において観測された、多重圏界面構造と第一圏界面高度の下降の力学について詳しく調べた。その結果、この多重圏界面構造は鉛直波長約3 km程度の慣性重力波によって作られた可能性があることが分かった。 これらの現象のメカニズム及び空間構造を調べるために、重力波パラメタリゼーションを含まない全球非静力学モデルNICAMを用いて数値シミュレーションを行った。NICAMによる再現実験では、昭和基地で観測された多重圏界面構造や第一圏界面の下降がよく再現されていた。解析の結果、昭和基地で観測された重力波の大部分は、昭和基地の西方において、不安定な寒帯前線ジェットの周りで起きた自発的調節過程によって励起され、昭和基地まで伝播した可能性が高いことが分かった。この結果は、現在の地球規模の気候モデルにこのような重力波の発生や水平伝播を組み込むことで、モデルの精度が向上する可能性があることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的としていた極域の対流圏界面付近の現象について、最新の大型大気レーダー及び全球高解像度数値モデルを使用して解析することが出来た。使用した大気レーダー及び大気モデルは世界最先端のものであり、対象としている極域対流圏界面が従来調べられてこなかったことに加えて、手法面でも新しさを加えることが出来た。また、この研究成果について国際誌Journal of the Atmospheric Scienceに投稿し、2014年12月に受理された。さらに、国際学会及び国内学会でも積極的に発表を行い、発表賞を2件(米国気象学会・日本地球惑星連合)を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
南極初の大型大気レーダーであるPANSYレーダーの観測データはすでに2年分蓄積されており、数値シミュレーションによる長期的な再現実験と観測データとの統計的比較が待たれている。 そこで、高解像度数値モデルを用いたPANSYレーダー観測データとの長期比較解析的研究に備えて、数値モデルで用いられる水平格子の改良を試みている。全球に存在する水平格子点を極域に寄せることで、極域でより高解像度かつ一様な格子を作成することに成功した。加えて、各グリッド面積と総グリッド数の幾何的な拘束条件などを考慮することで、格子寄せによる解像度向上の限界についての解析的な条件を示した。現在はこの結果について論文投稿準備中であり、本格子を用いた長期シミュレーションに向けての感度実験などを行っている。今後は当初目標としていた数値モデルを用いた長期積分を行っていく予定である。
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