研究課題/領域番号 |
14J09272
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 琢 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 触力覚提示 / パッシブハプティクス / 静電吸着 |
研究実績の概要 |
本研究では静電吸着を利用した画面上でのマルチユーザ静電力覚提示システムの研究開発を行ってきた.今年度における本研究の主な成果は,静電吸着の活用によるパッシブ型小型硬軟感提示装置の実現と,マルチユーザ静電力覚提示のためのビルトインセンサの実現である.今後の展開として,両者の統合により本研究課題で目的とする,画面上での静電力覚提示と硬軟感提示の統合による複合触感提示の実現が期待される.以下,各成果の概要を述べる. 【静電吸着を用いたパッシブ型小型硬軟感提示装置】画面上の複合触感提示の実現には,本力覚提示システムに統合可能な小型硬軟感提示装置が不可欠である.しかし,従来の硬軟感提示手法では,ごく固い面から柔らかい面まで幅広いレンジを提示可能で,かつ指先大程度の大きさであるものはない.提示レンジの広い手法として,押付け力に応じた,指と柔軟物体の接触面積変化の再現による硬軟感提示手法がある.しかし,この手法による従来の装置は,直動モータ等を用いて能動的に接触面積を制御しているために小型化が困難であった.本研究では,操作者の押込み力を利用して,提示子が指を包み込むように変形するパッシブな接触面積制御による小型硬軟感提示を提案・実証した.静電吸着によるブレーキを利用し,機構変形時の抵抗を変化させて広範囲の硬軟感を提示できることを示した. 【マルチユーザ静電力覚提示のためのビルトインセンサ】本力覚提示システムは,対向電極間にかかる静電吸引力を用いて,ブレーキ力の制御によるパッシブな力覚提示を行う.この力覚提示のための電極を活用し,表面型静電容量式センサの原理を援用した,ビルトインセンサシステムを実現した.本センサは,静電力覚提示の簡易さを損なわずに,提示子の位置および提示子にかかる力を推定することができる.また,将来的に小型硬軟感提示装置と統合した際に必要となる押込み力も推定可能と期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,静電触力覚提示技術を応用し,大画面上に映像と同期した多様な触感提示を可能とするマルチタッチ複合触感提示を実現することを目的としている.今年度の進捗として,静電吸着を用いた小型硬軟感提示機構と,静電触力覚提示機構にビルトイン可能なセンサシステムを実現した.当初の年次計画であった硬軟感提示と静電力覚提示の統合までは至っていないが,各要素技術について十分に統合可能性を持つ手法を提案および実証し,本研究の目的に対して順調に進展しているといえる. とくに,当初の年次計画にはなかったビルトインセンサシステムの実現は,静電触力覚提示機構の最大の利点のひとつである薄型対向電極からなる構成の簡易さを損なわずに,提示子の位置や提示子にかかる外力や提示力等を推定できる点で,非常に画期的である.本研究のベースとなる画面上マルチユーザ静電力覚提示システムにおいて,システムを複雑化させる追加のセンサを付与することなく,力覚提示に必要な位置を測定でき,ベース技術は当初の想定より高い完成度に達したといえる.また,提示子にかかる荷重や提示力を推定できる可能性があり,これを用いたより高品位な力覚提示の実現が期待される.さらに,硬軟感提示統合時に必要な押込み力の計測に用いられる可能性がある.以上のように,今年度に達成したビルトインセンサシステムは,今後の研究推進における静電触力覚提示の拡張性を大いに広げるものである.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,静電吸着を用いた小型硬軟感提示機構と静電力覚提示システムの統合,ビルトインセンサシステムの応用拡張の検討,複合触感提示の制御手法の検討の3つの課題が挙げられる.以下,各課題の概要を述べる. 【硬軟感提示と静電力覚提示の統合】今年度に達成した小型硬軟感提示機構を静電力覚提示システムに統合する.どちらも対向電極フィルムにかかる静電吸着を利用しているため,統合時の親和性は高いと考えられる.機構の簡易性を維持するために,単純な機構の積層ではなく共通の電極フィルムを用いての統合が望ましいが,この場合における硬軟感提示制御と静電力覚提示制御の独立性を保つことが主な課題となる. 【ビルトインセンサシステムの応用拡張】本センサは,提示子位置のみならず,提示子にかかる外力や提示力を推定することが可能であると考えられる.位置のみならず外力や実際の提示力を考慮した触力覚制御を行うことでより高品位な触感提示の実現が期待される.また,硬軟感提示を統合した静電力覚提示において必要となる押込み力推定の実現も主な課題である. 【複合触感提示の制御手法の検討】硬軟感提示と静電力覚提示の統合が実現し,ビルトインセンサシステムによる位置と力の計測も同時に行えるようになると,操作者の指の動き(位置・速度など)や指に加える力に応じて,硬軟感・力覚・振動の異なるフィードバックを複合的に行えるようになる.制御手法の確立による画面上の複合提示の実現は,ヒトの触錯覚現象など知覚メカニズムに対する新たな知見を与える実験に用いられる可能性もあり,重要な課題である.
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