研究課題/領域番号 |
14J09329
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
則 のぞみ 京都大学, 情報学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 多項関係予測 / テンソル分解 / 診療支援 / 患者のリスク予測 / マルチタスク学習 |
研究実績の概要 |
今年度は以下で説明する二つの研究に取り組んだ.
(1) 複数種類の多項関係予測:当初の研究計画通り,複雑な多項関係を予測するための手法を開発した.複数種類の多項関係予測における標準的なアプローチは複数テンソルの同時分解であるが,それらの手法の多くは非凸最適化問題として定式化されるため特にデータが疎である場合には局所解による精度悪化という問題が生じる.特別研究員は複数種類の多項関係をハイパーグラフとして捉えることで,複数種類の多項関係予測問題を凸最適化問題として定式化し,データの疎性に頑健な予測手法を提案した.
(2) 診療支援のための統計的機械学習手法の構築とその先進的応用:京都大学大学院医学部と共同研究を行い,集中治療室入室患者の死亡リスク予測のための手法を開発した.この問題は診療支援にも繋がる重要な問題であるが,従来は複数の疾病に対して一つの予測モデルが構築されており,”疾病ごとに死亡リスクを説明する予測ルールが異なる”という疾病コンテキストが考慮されてこなかった.特別研究員は集中治療室入室患者の死亡リスク予測問題を疾病を単位としたマルチタスク学習として定式化し,疾病毎に個別化されたモデルを同時に学習することで,疾病コンテキストを考慮した予測モデルを構築した.疾病毎にモデルを個別化する際にはデータの不足・疎性により予測精度が悪化するという問題が生じるが,この問題を解決するために,医学的な分類に基づく疾病間の関係や患者を表現する電子健康記録における医療知識をグラフの形でモデル推定に活用し,高精度な予測手法の開発に成功した.そして医療機関の実データを用いた実験を行い,提案手法が従来手法を上回る予測精度を持つことを示すとともに,学習された疾病毎の予測ルールが医療分野のエキスパートによって解釈可能であること,今後医療分野での検証の対象となりうる仮説の候補を含むことを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 複数種類の多項関係予測 ハイパーグラフを用いることで,当初目的としていた複数種類の多項関係を高精度に予測するための手法を開発した.複数種類の多項関係予測のための従来手法は複数テンソルの同時分解が主たるものであるが,それらの多くは非凸最適化問題として定式化されるためデータが疎である場合に局所解による精度悪化が問題となる.特別研究員はハイパーグラフを用いることで複数種類の多項関係予測を凸最適化問題として定式化し,データの疎性に頑健な予測手法を開発した.この研究成果は2014年に人工知能学会全国大会優秀賞を受賞するとともに速報論文として採択された.以上のように,当初の目的を達成するとともに研究コミュニティで高く評価される研究成果を挙げたと考える.
(2) 診療支援のための統計的機械学習手法の構築とその先進的応用: 本研究課題の中で応用として掲げていた情報抽出支援の実現の場として,ヘルスケア分野での先進的応用を目標に掲げ,そのための統計的機械学習手法の構築に取り組んだ.具体的には,集中治療室入室患者の死亡リスク予測問題において,医学/医療分野における知識をグラフの形でモデル推定に活用することで,疾病コンテキストを考慮した高精度な予測モデルを構築した.京都大学医学部との共同研究を通じて医療機関の実データを用いた実験を行い,提案手法が従来手法を上回る予測精度を持つことを示すとともに,学習された疾病毎の予測ルールが医療分野のエキスパートによって解釈可能であること,医療分野での検証の対象となりうる仮説の候補を含むことを確認した.本研究は,医療分野での応用を通じてグラフを用いた解析法の可能性を大きく広げると同時に,診療支援(医療分野での情報抽出支援)という文脈において,グラフを用いた解析法の実用的な応用のさきがけとなる研究と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,関係予測のための技術開発とヘルスケア分野での先進的応用に取り組む予定である.現実のデータに観測されるような疎性,不確実性,ノイズなどに対処できる予測手法を開発するために技術的課題の解決に取り組むとともに,引き続き医療分野の研究者との共同研究を行いヘルスケア分野での先進的な応用のさきがけとなる研究を行う予定である.
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